【連載】急変対応マニュアル

高齢者の身体機能低下を理解する

解説 前田孝子

東京都健康長寿医療センター 医療安全室 専任リスクマネージャー 看護師長

高齢者の急変は、気付いたときには重篤化していた! ということが多いもの。高齢者の心身の機能低下の仕組みを知り、急変リスクへの理解を深めておきましょう。


加齢による身体機能の低下とは

加齢による身体の機能の変化は、その人の生活習慣、生活環境や社会的背景など、さまざまな因子に影響され、個人差が非常に大きくなることが特徴です。基本的には、加齢により身体のさまざまな機能が低下して予備能力がなくなっているため、疾患にかかりやすく、しかも発見したときには重篤化していたり、何かのきっかけで急変する可能性が少なくありません。

そこで、急変に備えるには、高齢者の加齢による変化を正しく理解し、患者さん一人ひとりの個別性を考慮した、慎重な観察と細やかなケアが必要となります。

高齢化に伴う機能低下には、大きく3つに分けて考えることができます。

1 運動機能の低下

加齢によって、骨、関節、筋肉が衰え、筋力、敏捷性、持久力、平衡性、柔軟性、全身協調性といった運動機能が低下。日常生活動作(以下、ADL)の障害につながり、症状の改善を阻害したり、転倒・転落のリスクをいっそう高めるなど、慢性化や障害を引き起こす悪循環に陥りやすくさせます。

2 予備能力の低下

高齢者は多くの疾患や症状を併せ持っているため、さまざまな身体機能の変化が起こります。例えば、呼吸器や循環器の機能低下により、息切れや動悸、浮腫などがみられたり、消化器では、嚥下機能の低下に加えて消化能力の低下や腸蠕動運動が低下するため、食欲不振や消化不良、便秘などの症状が現れます。泌尿器では、頻尿、失禁などもみられます。肝・腎機能の低下は、代謝機能の低下を引き起こし、薬剤の影響が強く出る傾向があります。

3 感覚機能の低下

視覚では視力低下や羞明、暗順応の低下が起こります。聴覚では高音域の聞き取りにくさや難聴によって周囲とのコミュニケーションを阻害され、平衡感覚も低下するため、視覚低下と合わせて転倒のリスクが高くなります。

また、外界からの情報を正確に理解しにくくなるために、事故を誘発したり判断ミスなどが生じやすくなります。知覚低下は、刺激に対する反応が鈍くなるため、痛みの訴えが乏しく、疾患や外傷の発見が遅くなることもあります。

高齢者の急変時の注意点

なぜ、高齢者の急変に注意が必要なのか、一般成人とは異なる特徴を理解しておきましょう。

1 訴えがはっきりない

高齢者は、加齢や疾患によるさまざまな機能低下により、コミュニケーションがうまくとれず、自分の症状や身体の異常をうまく訴えられません。家族が重症と考えずに受診させたら、実は重症だったケースがよくみられます。

例えば、「お腹が痛い」「気持ち悪い」という訴えがあり、心電図を取ってみたら急性心筋梗塞を起こしていたこともありました。「訴えが不明確」であることを念頭に、多角的にスクリーニングして急変に対応することが重要です。

2 症状が出にくい

ある患者さんは、発熱しているが高熱ではなく咳もないが、なんとなく元気がないので家族とともに来院したところ、胸部X線で肺炎を発見。その後すぐに重篤化して人工呼吸器を装着する事態に陥ることもありました。

肺炎では一般成人でみられる高熱や咳、白血球の増加といった症状は、高齢者では50 ~ 60%しか表れないといわれています。「明らかな症状がない=大丈夫」ではなく、多角的な視点から観察し、さまざまな可能性を消去して診断する方法を取り入れます。

3 非定形的な症状

前述した「症状が出にくい」に共通することですが、教科書的な、疾患の特徴的な症状が顕著に表れないため、疾患の発見・診断が遅れ、いつのまにか重症化し、急変につながる危険性があります。例えば、肝・腎機能が低下しているため、薬剤の代謝や排泄が十分に機能せず、体内に蓄積されて思いもよらない副作用が出現することがあります。

また、感覚機能の低下に加えて、入院などの環境の変化が影響して、転倒・転落による骨折や、せん妄などの精神症状の出現から思わぬ重大事故につながることもあります。

高齢者の急変にいち早く気付くには

意識レベルが低い、自分の症状の変化や身体の異常を伝えられないなど、コミュニケーションがとれない患者さんでも、顔色、表情、動作など、なんらかのサインを発している可能性があります。いつもと違う様子がみられたり、普段は言わないような言葉を発しているなど、「いつもと違う」と感じることがあれば、要注意です。

患者さんの細かい違いに気付くことができるのは、患者さんの一番身近でケアしている看護師の役割です。表情や言動などが、いつもとどう違うのかを観察し、チームのスタッフや医師に報告し、検査等を行うようにしましょう。

次回は「急変につながる高齢者のリスク[転倒・転落]」について解説します。

(『ナース専科マガジン』2012年6月号より転載)

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