【連載】すぐに使える移動・移乗テクニック

力任せの体位変換を見直しませんか?

解説 熊谷祐子

現・自治医科大学看護学部 講師

生活に基づいたベーシックな技術だからこそ、意外とブラッシュアップされていない援助技術。初回は、その大切さについて考えてみることにします。


医療現場から看護本来の技術が失われていく?!

近年の医療器具の進歩に伴い、看護技術は劇的に変化してきています。例えば、注射は、ガラスの注射器からディスポーザブルに変わることで、内筒が抜け落ちることに配慮することなく行えるようになりました。採血も同様で、真空採血管の使用で、これまでのように血管・血液と対話しながらの手技は必要とされずにすみます。

安全に行為が行えるように改善されていく医療器具の進歩により、看護師は五感を使った技術を忘れていってはいないでしょうか。

一方、体位変換のような看護技術に関しては、エビデンスに基づいた作用・反作用、ベクトル、てこなどの原理を用いての体位変換が実施されるようになってきています。

1970年代後半から80年代にかけて学んでいた体位変換は、看護師だけでなく患者さんにも負担をかけていたことがわかりました。

援助技術はそれまで経験知として語られることが多く、体系化されていなかったため、その後もキャリアのある人の技術を踏襲することで、効率的で理にかなった動きを再現してきました。エビデンスとして技術を言葉で伝えることも不得手だったといえるのかもしれません。

そのためか、楽に行える工夫として看護師の技術よりも、バスタオルを利用したり、スライドボードを使うといった道具に改善策を求める傾向が今なお続いています。

本来、看護技術、特に体位変換は道具の発展に頼らず、人の手によって実施するべきものです。物理学的なエビデンスが整い始めている今こそ、これまでの力任せの看護技術を見直し、力学的原理を使った技術を学ぶ機会にできたらよいと思います。

ナースだからこそ看護技術で患者さんを癒したい!

エビデンスに基づいた看護技術の必要性を感じたのは、研修でこれまで自分が行っていた方法とは全く違った技術に出合ったことにありました。

驚きと技術の美しさに自ら技術体得のために患者役に立候補し、体験すると、身体を動かされるたびに癒される感覚が伝わり、その看護者の手から温かさを感じました。

それまで「癒し」は空間、言葉、音楽などで得られる感覚的なものと考えていましたが、この研修の経験から、看護師は看護技術で患者さんを癒すことのできる技術を提供することが必要であると考えました。

物理学を用いたこの方法では、患者さんの身体を小さくまとめることが重要です。そのため、患者さんと身体を密着させることも多く、患者さんとの信頼関係が築きやすくなる特徴もあります。病院、クリニック、介護施設、訪問……どんな場面で看護に携わっている人にも、便利さに頼りすぎない、エビデンスをもとにした看護を行っていただければと思います。

この援助技術で看護が変わる?!

次回から具体的に紹介していく援助技術は、物理学的視点から考案されたものです。例えば、片麻痺のある患者さんのズボンの着脱には、作用・反作用の力を利用します。

患者さんに健側の足で「ベッドを踏んでください」と声かけします。すると、押した力で腰を挙上することができ、容易にズボンを引き上げることができます。

余計な力もいらず1人で行えるので、効率的に援助ができて時間の短縮にもなります。夜勤時も、以前より楽に体位変換できるようになるでしょう。

ただし、この技術は力学的原理を十分に理解し、患者さんの状態からその技術をどのように使えば身体がスムーズに動くのかが理解されていないと、使いこなすのに難しい点があります。実際、習得する前に挫折して、以前のやり方に戻ってしまうケースも少なくありません。

しかし、掛け声とともに力任せに行う方法と違い、援助者と被援助者の双方にとって安全・安楽であること、バイオメカニズムにかなっていること、援助技術が自立へのプロセスと連動していることなど、優れた点がたくさんあります。

ぜひとも習得していただきたい技術なので、次回からは写真を多用してその原理をわかりやすく解説していきます。エビデンスを持って実践していきましょう。

習得によって対象者、看護者双方にとって「こんなに力が抜けて楽になった」と体得することで、ベッドサイドに向かう回数が増えることを期待します。

こんな人のブラッシュアップにオススメ

  1. 教育機関を併設していない病院に勤務している
  2. 学生実習の受け入れがない病院に勤務している
  3. 勤務先で同じやり方を何年も継続している

次回は、1人でできるラクラク体位変換について解説します。

(『ナース専科マガジン』2011年4月号より転載)

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