【連載】医療事故、あなたならどうする?

第5回 【医療事故】刑事弁護人を選任するときの注意点は?

監修 水島幸子

社団法人大阪府看護協会および社団法人兵庫県看護協会顧問弁護士。


前回は、どのタイミングで弁護士に依頼すればよいのかを解説しました。今回は、選任する際の注意点について解説します。


自己弁護のためだけではなく患者さんに何ができるか考える

刑事弁護人を選任する際の注意点ですが、残念ながら、病院の顧問弁護士の中には、個人責任が問われる刑事事件に対して、「個人の責任をなぜ病院が主体で守らなくてはいけないのか」「個人に弁護士をつけるとご家族・ご遺族の反感を買う」という考え方をもっている顧問弁護士がいるのが実情です。

場合によっては、医療事故の刑事事件の場合、これまで多くのケースで、略式起訴という形で処理されることが多かったことから、「どうせ略式罰金だから」と安易に考えられることもあります。

また実際、被疑者となった医療者が弁護士に相談に行くと、「起訴されてから来てください」と追い返されたケースもあると聞きます。一口に弁護士といっても、専門分野もいろいろな上に、考え方もさまざまなのです。

当然、私は私自身の経験でしかお話しできませんし、私の考え方が絶対に正しいというつもりはありません。

ただ、起訴されてからでは遅すぎます。略式罰金も正真正銘の前科です。起訴されてからできることがあるのであれば、起訴される前にすべてやるべきです。

そして、刑事弁護人を付けてやるべきことというのは、自己弁護に終始するということではありません。医療事故が発生した場合にやるべきことというのは、被害者となってしまった患者さんのために、できることは何かを刑事弁護人と一緒に考え、最後までやり抜くことなのです。

医療事故への対応は病院全体で取り組む必要がある

※医療事故は病院という組織の中で起こることです。それにもかかわらず、単に個人が罪を被って終わりでは、何ら教訓が生かされないまま、医療事故は増える一方です。もちろん、略式罰金でも、看護師本人の経歴に傷が付きますし、事実上復職が困難となります。病院がそのような受け身の姿勢では、職員の士気も下がってしまいます。

言うまでもなく、医療事故への対応では、病院の考え方や姿勢が大きな鍵を握っています。医療事故が発生した場合、大切なのは、医療事故の被害者となってしまった患者さん・ご家族・ご遺族が望んでいることは何かという視点を常に念頭において、刑事弁護人と一緒になって、事実の解明・原因の分析およびそれらを踏まえた再発防止を策定することです。

これらのすべてにおいて適切な対応や対策をするためには、病院全体で取り組む必要があり、個人では到底不可能です。

確かに、医療事故を起こさないことが何よりも大切なのですが、ひとたび医療事故が発生してしまった場合、病院全体が一丸となって取り組まなければ、医療安全は達成できません。医療事故が発生した後にそれを教訓とし、見事に生まれ変わった病院はいくつもあります。

そして、実際に私自身が担当した医療事故の刑事事件で、そのように病院全体で取り組むことができた事例については、結果的にではありますが、今までのすべてのケースで、看護師個人・医師個人とも全員が不起訴処分となっています。被疑者となった皆さんは、それぞれ現職として元気に働いています。

一度、医療事故を経験し、逆境にめげずに、被害者への謝罪等を含めきちんと対応することができた医療者は、生まれ変わったようにたくましく、感心するほどです。

医療事故が刑事事件となった場合でも、病院の利益と個人の利益は対立も矛盾もしないという認識を、院内全体で共有していただきたいと思います。


POINT1 単に個人が罪を被って終わらせようとしないこと


※次回からは、知っておきたい法律関連用語について解説します。

(『ナース専科マガジン』2011年2月号より転載)

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