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【連載】麻酔科看護師が解説! 術後疼痛管理

術後痛のアセスメントとは|術後急性期の痛みの特徴とケア

執筆 赤沼 裕子

聖路加国際病院 麻酔科 周麻酔期看護師

今回は前回に引き続き、術後に起こりやすい痛みの種類や発生機序を理解したうえで、実際の臨床現場でどのように患者さんの痛みをアセスメントしていくかを解説していきます。

【目次】


術後痛のアセスメント

 手術患者さんの多くは、手術が決定した時点からすでに術後の傷の痛みを心配しています。患者さんには鎮痛を受ける権利がありますし、術後痛を治療することは医療スタッフの義務であり、最小限にとどめる工夫が求められます。そして、術後痛に対し適切に介入し治療することで、術後合併症が予防でき早期離床や社会復帰が可能となります。

 外科的侵襲に対する生体の生理的反応や臨床徴候、特に術後合併症の徴候を鑑別することで、異常の早期発見と悪化の防止を図ることができます。一般的に急性期の痛みは術後24時間以内が最も強く、その後2~3日まで持続し、時間とともに消失していきます。術後4~5日経過しても術後痛が強い場合は、術後合併症等の発生が疑われるため、痛みの性質をアセスメントしながら適切な看護介入につなげましょう。

術後急性期の経時的な回復過程と痛みの特徴

術後24時間以内

 麻酔覚醒と同時に強い痛みを自覚し始め、術後4~9時間が最も強くなります。この時期の痛みを我慢させてしまうと、深呼吸が抑制され呼吸パターンの悪化や喀痰貯留を招き、無気肺など呼吸器合併症の原因となります(特に開胸術や上腹部手術)。また交感神経の緊張により、血圧上昇や頻拍など心臓の働きに負担をかけるような循環器合併症を起こしやすく、創傷の治癒過程も障害されるため十分な鎮痛を行うことが重要です。

 この時期に患者さんの表面痛(体性痛:皮膚表面の傷の痛み)のみでなく、呼吸苦や肺音の異常、胸痛や胸部不快感、バイタルサインの異常、後出血、ドレーン排液の異常などを発見したら、早急に医師に報告し対応する必要があります。

術後1~2日頃

 術後痛は断続的となり軽減されますが、離床時の体動に関連した深部痛(体性痛:深部の筋肉痛)や、咳嗽や痰の喀出に伴う痛みが強くなります。特に高齢者や肥満、喫煙歴のある患者さんは、喀痰の増加や肺炎を引き起こしやすく、呼吸器合併症のリスクが高くなります。

 また麻酔時の気管挿管チューブによる喉頭痛、嗄声も出現することがあります。その他に長時間手術や下腹部・股関節手術、離床が遅れている患者さんなどでは、血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓)のリスクが高まるため、下肢痛や浮腫、初回歩行時の突然の胸痛やバイタルサインの変化には十分注意する必要があります。

術後3~4日頃

 腸管運動の回復過程に関連した痛み(内臓痛)が現れやすくなります。経口摂取開始前後は、消化液や腸管ガスが溜り腹部膨満感や鈍痛・不快感を訴えることが多いですが、蠕動運動が正常化すれば消失します。

 反対に便やガスが貯留し、腹部膨満感の増大、間欠的な腹痛、腸音の低下または亢進、金属音聴取、嘔気嘔吐が出現したら術後イレウスの可能性が高く、除圧チューブの留置や外科的イレウス解除術も必要になります。

 また、創部感染や縫合不全などの合併症が起こる時期であり、消化器疾患の術後患者さんなどでは創部の状態やドレーン排液の異常とともに、発熱、血液検査上の炎症が全身的症状として現れやすくなります。感染状態が悪化すると腹膜炎症状として反跳痛や筋性防御などの腹膜刺激症状が出る可能性もありますので、一般的な体性痛・内臓痛との鑑別が重要になります。

回復期5~10日頃

 離床も進み退院が近づくと、手術の後遺症とも言えるような痛みが発生することがあります。例えば開胸手術による肋間神経障害による痛みや、術中体位による肩の痛み、ドレーン挿入後の引き攣れや神経痛などがあります。

 このように術後痛とは、創部痛とその他の要因が加わることによって起こる複合的な痛みですが、創傷治癒とともに軽快する急性痛です。この時期の疼痛管理が不十分になってしまうと、その後2~3カ月持続する慢性痛に移行し、QOLの低下や社会復帰の妨げになることがあるため、適切なアセスメントと術後痛管理が重要となります。

*昨今は低侵襲手術(胸腔鏡下・腹腔鏡下)やERAS(術後回復強化プロトコル)の普及により、術後の合併症が減少し入院から退院までの日数は短縮傾向にあり1)2)、術後痛管理における患者さんの満足度も向上しています3)

痛みを測定することの意義

 術後痛は、創部痛だけでなく手術に対する不安や緊張により修飾されますので、患者さんの性格や背景により表現も異なります。主観的な感覚である痛みを、客観的に妥当性を持って厳密に測るのは難しいことではありますが、患者さんに対し十分耳を傾け、痛みの生理的反応と随伴症状を注意深く観察することが必要です。

 術後痛の程度を客観的に観察するときに用いられる尺度(以下スケール)は、痛みを点数化しそのスコアの推移を観察することにより、術後痛の程度や鎮痛の効果を評価するうえでとても参考になります。このため、術後痛管理に用いる鎮痛評価法は、簡便であることに加えて迅速に実施できることが重要となります4)

周術期の痛みアセスメントの実際

 術前から患者さんを教育することは、術後回復に重要な要素となります。患者さんやその家族に術前オリエンテーションの際に、手術中や術後の経過、痛み評価スケール、鎮痛方法を説明することによって、患者さんの中で術後のイメージ化ができます。そして術前の不安軽減のみでなく、術後の痛みそのものを緩和することも期待できます。また、院内で共通の評価法を決めておくと、多職種スタッフが情報を共通認識できるため活動をスムーズに進めることができます。

 術後の観察項目は、痛みの部位、発症時期、状況(安静時・体動時)、性質(鈍痛、しびれる感じ)、頻度(持続的・間欠的)などを確認します。そして入院している間は、痛みの評価を1日1回以上、スケールを使用して測定しましょう(参照)。痛みがあった場合は、さらに継続した観察・アセスメントを行い鎮痛のための介入を行います。またアセスメントした内容は記録に詳細に残すよう心掛け、ケアプランも適宜変更していきましょう。

 多くの痛みスケールの中でも、代表的なものにNRS(Numerical Rating Scale)スコアがあります。痛みを0から10の11段階に分け、患者さんにとって痛みが全くないのを0、想像する最悪の痛みを10として点数を評価するスケールです。

 実際の患者さんには、「あなたにとって想像する最悪の痛みを10とすると、今の痛みの強さはどれくらいになりますか?」と質問します。その結果、NRS 0~3(軽度の痛み)の場合 は、表情などを観察し本人の希望がなければ、積極的な鎮痛は行わず経過を観察します。

 NRS 4~6(中等度の痛み)の場合は、処方されている鎮痛剤投与の可否を判断します。投与を行った際は後に鎮痛の再評価を行います。NRS 7以上(我慢できない痛み)の場合、担当医に報告しさらなる鎮痛方法を検討することになります。

 これらの判断基準はあくまで一つの例であり、施設ごと、患者さんの背景や医師の判断により変化しますので、管理しやすい基準に適合させるとよいでしょう。

NRS(Numerical Rating Scale)
NRS

 その他、以下のような評価スケール5)もあり、対象の患者さんにより選択が可能です。

VAS(Visual Analogue Scale):長さ10cmの黒い線(左端が「痛みなし」右端が「想像できる最大の痛み」)を患者に見せ、現在の痛みがどの程度かを指し示す視覚的なスケール。

VAS

フェイス(Face Scale): 疼痛を痛みのない顔から、非常に痛みが強い顔まで6段階に分け、疼痛の程度を点数で評価できない小児、あるいは言語的コミュニケーションが難しい患者さんに用いるスケール。

フェイススケール

NIPS( Neonatal Infant Pain Scale):妊娠37週以降の出生~生後6週までの新生児に対して、生理機能(呼吸様式)、行動(顔表情、 啼泣状態、 腕の動き、 足の動き 、睡眠覚醒状態)のスコアを採点して評価するスケール。

BPS(Behavioral Pain Scale):人工呼吸器装着患者に対して、表情、上肢の状態、呼吸器との同調性のスコアを採点して評価するスケール。

まとめ

 今回は、術後痛管理を行う看護師に必要な知識として、術後患者さんの回復過程に伴う痛みの特徴と、アセスメントの実際についてお話しました。

 術後合併症の予防と回復促進のための鎮痛対策は、麻酔科や看護師にとって重大な責務です。次回は、その鎮痛対策の具体的な方法をお伝えしたいと思いますので、どうぞご期待ください。


【引用・参考文献】
1)Varadhan KK, et al. : The enhanced recovery after surgery (ERAS) pathway for patients undergoing major elective open colorectal surgery: A meta-analysis of randomized controlled trials. Clinical Nutrition. 2010;29(4):434–40.
2)Gustafsson UO, et al. : Adherence to the Enhanced Recovery after Surgery Protocol and Outcomes after Colorectal Cancer Surgery. ARCH SURG 2011;146(5):571-7.
3)Khan S, et al. : Quality of life and patient satisfaction with enhanced recovery protocols. Colorental Dis 2010;12(12):1175-82.
4)濱口 眞輔:痛みの評価法.日本臨床麻酔学会誌2011;31(4):560-9.
5)日本ペインクリニック学会(2019年1月23日閲覧)
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html
6)富田幾枝,編:新看護観察のキーポイントシリーズ「急性期・周手術期 Ⅰ」.中央法規出版,2011.

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