【連載】Q&Aで考える高齢患者さんのせん妄ケア

せん妄は予防できる?

解説 金盛琢也

日本赤十字豊田看護大学 老年看護学 講師 (旧:聖路加国際大学 大学院看護学研究科 老年看護学)

Q.せん妄を予防することはできますか?

A.高齢者であればほぼ全員せん妄になると考え、環境づくり、コミュニケーション、チーム医療に基づく介入によって予防に取り組むことが重要です。

促進因子への働きかけが有効

 せん妄ケアの基本は早期発見、早期介入です。しかし、高齢患者さんや認知症患者さんではほぼ全員がせん妄になってしまうといっても過言ではないため、せん妄発症の予防だけでなく、せん妄になっても安全に治療やリハビリが行えるよう、せん妄の重症化を予防するかかわりも重要です。

 つまり、せん妄を発症していない「0」の状態から発症した「1」の状態にしないのではなく、高齢者などのハイリスク患者さんでは、入院時からすでに「1」の段階と考え、それを「2」にしないようなかかわりをするということです。

 このようなせん妄ハイリスク患者さんに対する取り組みでは、促進因子への働きかけを行うことで、せん妄の発症やせん妄に伴って生じる問題を減らすことができると考えられます。

ポイントは不安を感じない環境づくり

 入院やICU入室などの空間的環境、周囲の人的環境、食事や睡眠、生活リズム等の時間的環境など、さまざまな環境の変化はせん妄の促進因子です。高齢者や認知症患者さんでは、これらの環境の変化に適応できず、見慣れない場所や人、生活パターンに緊張し不安を感じて、せん妄を起こします。そのため、このような環境に関係する促進因子への働きかけがせん妄予防には欠かせません(図)。

せん妄を誘発しにくい環境づくり

 環境づくりの具体例には、①病室を落ち着ける環境に整える、②時間がわかるような働きかけをする、③日常的に世間話をする、④患者さんが見慣れた写真、家族の写真などを置く、などが挙げられます。

 例えば、①については、緊急入院により急に環境が変わることで、高齢患者さんは混乱をきたします。特に病室は壁が真っ白で生活感がなく、医療機器に囲まれており、廊下は夜間も明るいなど、それまで生活していた自宅の環境とは随分異なります。医療機器のライトを患者さんから見えないように工夫をする、廊下の照明が患者さんの目線に当たらないようにするなど、患者さんが落ち着けるような入院環境をつくることが大切です。

 ②では、日時や場所の見当識の支えとなるようなカレンダーやホワイトボードなどを置くリアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)を実施するなどが効果的です(column参照)。夜眠れないなど生活リズムが乱れてきていないかなどにも気を配りましょう。

不安や混乱を理解したコミュニケーションを

 コミュニケーションの方法を工夫することも大切です。高齢患者さんは、病名や薬の名前、医療用語など、入院生活に関するさまざまなことを若い人ほど覚えられず、入院や手術に対して漠然とした不安を感じています。そのうえ、多くは困っていることを人に伝えられない状態であることを理解しておきましょう。

 中には、夜中に患者さんが廊下でウロウロしていると、「早く部屋に戻ってください」「早く寝てください」と指示的にかかわろうとする人もいるのではないかと思います。そうした言い方は、患者さんには威圧的に聞こえ、ストレスを与えます。できるだけ患者さんがどのように困っているのかを聞く時間をつくり、理解度に合わせてゆっくり説明するように工夫しましょう。

 また、バイタルサイン測定の際などには、世間話などでコミュニケーションを図りましょう。何気ない会話が患者さんの緊張をほぐし、入院生活に関する理解を深めることを助けます。また、患者さんの人となりを知ることはせん妄時の対応にも役立ちます。

チーム医療に基づく介入のポイント

 上述のような個々の患者さんに合わせたケアのほか、チーム医療に基づくせん妄予防として、①全患者さんにせん妄スクリーニングを行う、②せん妄の原因となる薬剤をリストアップする、③絶食期間をなるべく短くする、などがあります。

 例えば、せん妄の原因となるベンゾジアゼピン系睡眠薬などを服用している患者さんであれば、入院時に睡眠薬の調整を医師に依頼するなどの予防策を実施するとよいでしょう。

 また、絶食はせん妄の誘因の一つといわれています。空腹や床上安静は患者さんにとってかなりの苦痛です。疾患や術式にもよりますが、治療計画の中で早期離床や絶食期間を短くすることも、せん妄予防に有効です。食べることで生活のリズムも取り戻せるので、せん妄を予防するうえで食事は重要といえます。

 これらは看護師だけでは実施できないため、医師や薬剤師など多職種で連携してせん妄予防に取り組めるよう、体制を整えることが望ましいでしょう。


column リアリティ・オリエンテーションって何?
 リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)は、せん妄や認知症にみられる見当識障害を改善するための療法で、現実認識を深めることを目的に行います。

 ポイントは、ケアの中で意図的に時間や季節、場所、なぜ入院しているのかなどをそれとなく伝えることにあります。今日の日付、今日の目標、リハビリなどのスケジュール、担当者の名前などをホワイトボードなどに書いたり、一日の流れを掲示しておき、患者さん自身に繰り返し確認してもらうことで、現実認識の強化につなげます。
 
ホワイトボードを用いた一例
 


参考文献
●日本精神神経学会,日本語版用語監修,高橋三郎,他 監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014.
●亀井智子 編著:高齢者のせん妄ケアQ&A 急性期から施設・在宅ケアまで.中央法規出版,2013.
●酒井郁子 他編:どうすればよいか?に答える せん妄のスタンダードケアQ&A100.南江堂,2014.
●八木一馬:入院患者におけるせん妄のマネージメント.みんなで解決!病棟のギモン.レジデントノート 2016;18(9):1758-63.
●林安奈 他:せん妄の鑑別診断と鑑別のポイント.せん妄に対する治療戦略最前線.臨床精神薬理 2017;20(2):149-55.
●粟生田友子 他:らくらくせん妄/不穏 予防・アセスメント・対応マニュアル.BRAIN NURSING 2017;33(3):7-49.


この記事はナース専科2017年10月号より転載しています。

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