【連載】慢性心不全患者のセルフマネジメント支援

【事例2】心不全急性増悪期にある患者の看護 ~急性期に行う療養支援の実際~

執筆 和田 直子

日本赤十字社和歌山医療センター 看護部(集中治療室) 慢性心不全看護認定看護師

目次

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事例紹介

 Bさん、80歳代後半、女性

診断名
 急性非代償性心不全

既往歴
 高血圧、冠攣縮性狭心症(coronary spasticangina:CSA)に起因する陳旧性心筋梗塞(old myocardial infarction:OMI)〔冠動脈造影:左前下行枝中間部、50 % 閉塞(CAG:#7、50%diffuse)〕

現病歴
 陳旧性心筋梗塞から虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy:ICM)、左室駆出率低下心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)で入院歴がある。前回退院時に在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)を導入している。退院後は自宅で調子よく過ごし血圧はやや高めで推移していた。ある日、洗面所で入れ歯の手入れ中にしんどさを感じ、夕食後の薬を摂取したところ息苦しさが増強し、その先はあまり記憶がない。孫娘が自室内で倒れているBさんを発見し救急要請、当院搬送となる。退院後6日での再入院であった。

前回入院時の状況
 前回、心不全入院時の増悪因子は、活動負荷(家事動作)と精神的ストレス(孫との生活)であった。また、前回入院中に夜間発作性呼吸困難の症状があり、いずれも血圧上昇を認めていた。そこで、後負荷不適合としてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、血管トーヌスも考慮しカルシウム拮抗薬が開始、夜間のみHOTの導入となった。

家族構成
 40歳代で夫と娘を病気で亡くしている。現在は、孫(男1人、女1人)が唯一の肉親である。孫は2人とも自身の世帯をもっている。Bさんは独居であるが、孫娘は近所に在住。Bさんは娘を亡くした際、孫はまだ学生であり、トラック長距離運転の仕事をして家計を支え、孫2人を育てた背景がある。孫娘は祖母に育ててもらったことを感謝しており、可能な限り、祖母の疾患管理に協力したいという思いをもっている。
 
入院時所見
 ●バイタルサイン
 心拍数103bpm(洞調律)、血圧176/101mmHg、呼吸数28回/分、SpO₂:89%(10L酸素マスク)

 ●身体所見
 浮腫なし、四肢末梢冷感+、チアノーゼ(下肢)+、全身に発汗あり、呼吸音:水疱音(coarse crackle)両側に著明にあり、意識レベル:JCS2、GSC E3V5M6
 
 ●Nohria-Stevensonの分類(以下、NS分類)1)
 うっ血所見(有)、低還流所見(有)wet&cold

 ●動脈血液ガス(ABG)
 pH7.036、PaCO₂:58.1mmHg、PaO₂:65.1mmHg、SaO₂:78.0%、Lac:8.6mmol/L、HCO3-:14.8mmol/L、ABE:-15.5mmol/L
 
 ●血液検査所見
kensa

 ●心エコーデータ
 僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)・三尖弁閉鎖不全症(tricuspid  regurgitation:TR)中等度
 下大静脈径(IVC)≒拡張(dilation)+、1RC(↓)陽圧換気下
 左室壁運動:ant-sept,apex(一部)壁運動消失(akinesis)
 post(base)…運動消失(hypokinesis)
 other…重症運動減少(severe hypokinesis)
 左心室駆出分画(LVEF)29%

 ●胸部X線写真
 心胸郭比(CTR)60%(前回退院時:52%)
 肺門部うっ血著明、急性肺水腫(flash pulmonary edema)、胸水は軽度

 ●心電図
 V1~V5:ST上昇、V1~V3:異常Q波
 身長145cm、体重41.5kg(前回退院時39.7kg)


事例アセスメント

 Bさんは、急激に血圧が高くなったことを契機に交感神経のさらなる興奮が生じ、それにより、血液の80%以上を占める細静脈が収縮し、静脈還流量が増えていたと考えられます。血液の中心移動(central shift)が起こったことで前負荷が一気に上昇し、右心系の圧排により左室拡張末期圧が上昇。その結果、Bさんの肺静脈圧は上昇し、肺水腫を呈したことでガス交換障害が起こり、低酸素状態となり呼吸困難につながったと考えます。
 
 それに加え、交感神経の興奮によってレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性し、水分を体内に貯留させ循環血液量を増やすことで心拍出量を維持しようとする働きも起きていたと考えます。

 また、心室駆出率(EF)30%と収縮能が低下したBさんの心臓では、血圧上昇により後負荷が高まった分、左室から血液が駆出しづらい状況に加え、中等度僧帽弁閉鎖不全症があるために、左房負荷、肺うっ血へとつながりやすかったと考えられます。そして、左室拡張能(E/e)が26.5と上昇していること、左房径が45mmと拡大していることから拡張障害があると判断でき、体液増加(前負荷増加)が少なくても、血液の中心移動と後負荷不整合(afterload mismatch)により肺うっ血が容易に起こりやすい状態であったと考えます(図1)。いずれにしても、良好な内服管理、モニタリングができているにもかかわらず、容易にうっ血増悪を繰り返しており、血圧上昇の原因精査と血圧コントロールが必要と考えられました。

 図1 Bさんの病態
zu1
①中心移動
 交感神経の興奮で全身の末梢血管が収縮する。収縮することで末梢血管にプールされていた血液量が中枢に集まり、全体の容量負荷がなくとも中枢に集まる。このことにより、右室の容量負荷となる。また、この過程は急激な変化として生じるため、右心系の容量負荷により左室が圧排され、左室拡張末期圧が上昇することで肺うっ血へとつながる。

②僧帽弁閉鎖不全症があるため左室から左房に血液が逆流する
 慢性的に血液の逆流があるため、左房は容量負荷の状態。その容量負荷のために左房は拡大している。左房と肺静脈の間には弁がないため、容量負荷による左房圧の上昇はそのまま肺静脈圧の上昇となり、肺うっ血につながる。

③拡張障害
 心臓(左室)が広がりにくい。つまり、容量負荷や後負荷が急激に上昇したときに広がることができる心臓であれば、容量負荷や後負荷の上昇により駆出できなかった分の血液をある程度は受け止められる。しかし、広がることができない心臓の場合、左室拡張末期圧(容量負荷や後負荷不適合による)が逃げる場所がなく上昇しやすい。その圧がMRと同じ要領で肺うっ血へとつながる。

④後負荷不適合
 交感神経の興奮により末梢血管抵抗が急激に上昇する。LVEFが低下している心臓にとっては、急激に上昇した末梢血管抵抗に打ち勝って血液を全身に駆出する力がなく左室に残ってしまう。残ってしまった血液により左室拡張末期圧が上昇し、肺うっ血、肺水腫へとつながる。


解決すべき課題
課題1 重症度の理解とフィジカルアセスメント ~救命と症状緩和の重要性~
課題2 急性増悪期における二重負荷の回避
課題3 増悪因子の特定とセルフモニタリング支援 ~急性期から始める療養支援~


課題解決のための実践

課題1への取り組み

重症度の理解とフィジカルアセスメント
 入室直後の動脈血液ガスでは、急性肺水腫による換気障害のため二酸化炭素が貯留し、呼吸性アシドーシスの状態でした。また、著明に乳酸の上昇が認められることから、低酸素状態に加えて、循環障害のために嫌気性代謝が進行した結果と考えられ、循環不全が進行していることを示していました。

 Bさんの来院時の状態は、CS12)、NS分類はうっ血所見(有)、低還流所見(有)でした。初期治療として、人工呼吸管理、利尿薬の投与がなされ、心電図変化から新たな虚血の進行を懸念して緊急カテーテル検査が行われました。しかし、結果は前回と変わらず、肺動脈圧(以下、PAP)や左心系の評価として肺動脈楔入圧を把握するためにSwan-Ganzカテーテルを挿入しICU入室となりました。この時点では心不全増悪の原因が血圧上昇なのか、血圧上昇は心不全増悪に伴う呼吸困難から生じたものなのかの判断は難しく、まずは血行動態と酸素化の安定を最優先として治療・ケアに当たる方針となりました。
 
 ICU入室時、呼吸音は全肺野で水泡音が聴取されましたが、陽圧換気と利尿薬の投与で4時間後には呼吸副雑音は消失していました。それに伴い、吸引痰の性状も泡沫上の血痰からやや粘稠な淡血性の痰へと変化し、肺水腫がコントロールされ始めているサインであるとアセスメントしました。
 
 さらに、入室直後にみられていた末梢冷感は、6時間程度で改善しました。末梢冷感は、不足している心拍出量を、末梢血管抵抗を上げることで生体が血圧を維持しようと代償している反応の結果です。Bさんは、末梢冷感が消失しても平均血圧は80~90mmHgを維持しており、生体に必要な心拍出量が治療によりまかなえるようになってきているとアセスメントしました。
 
 ただBさんは、挿管チューブへの不快感が強く、体位変換の刺激で不要なバッキングが頻回に起きていました。 BさんのPAPはバッキングで容易に上昇し、その圧は遷延する傾向がありました。バッキングがPAPの上昇を招くため、不要なバッキングをさせないように鎮静・鎮痛薬を調整しました。
 
 また、不快感や痛みはストレスとなり、せん妄を惹起し、交感神経を刺激する可能性があります。患者がストレスと感じていることを言葉で訴えることができない時期は、看護師が声にならない患者の訴えを丁寧に汲み取っていくことが大切です。
 
 ICU入室直後は、心負荷軽減や苦痛緩和に努め、血行動態や自覚症状の変化を経時的に確認しながら処置や検査、治療がスムーズに進むように支援することが重要です。そして、人工呼吸器による陽圧管理や利尿薬による体液管理、安静保持という治療に反応があるか、フィジカルアセスメントを駆使して経時的にみていくことも、今後の治療方針にかかわるため重要になります。

課題2への取り組み

二重負荷のリスクを回避
 Bさんは経腸栄養中、心拍数が上昇する傾向がありました。心拍数の上昇は、不足している心拍出量を代償している反応と考えました(図2)。心拍数の上昇は経腸栄養後1時間程度、持続していたため、食後2時間は安静を優先させ、リハビリテーションや清潔ケアの提供時間を調整しました。また、清拭や洗髪、手足浴などのケアは前負荷や後負荷に影響を与えるだけでなく、ケアに伴い酸素消費量を増加させてしまうため、時間をあけて部分的に実施することで、それらの影響が最小限になるように工夫しました。

 図2 血圧の成り立ちとBさんの循環器症状
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 このように、酸素消費量が最小限になるようにケア内容や提供方法を工夫することで、血圧、肺動脈圧、呼吸数、心拍数の上昇やSvO₂の低下を呈することなく、看護ケアを受けることができていました。

 また、Bさんは、PAPが上昇するとその圧が遷延しやすい特徴がありました。この情報からも二重負荷のリスクが高いと考え、なるべく負荷が重ならないようにする必要がありました(図3)。
 
 図3 二重負荷を避ける必要がある患者の把握
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 看護ケアの提供方法やタイミングによって、心臓にかかる負担は変わってきます。急性増悪時は、生体に必要な心拍出量(酸素量)が低下しているため、使う酸素の量を減らすケア(安静)を優先させる必要があります。そのため、看護師の都合で、ケアの時間や、ケアを連続して行うことも避ける必要があり、ケアそのものを実施するべきかどうかもアセスメントしなければいけません。

課題3 への取り組み

増悪因子の特定
 入室直後は気管挿管されていたため、Bさんから生活についての情報を得ることは困難でした。そこで、来院していた孫から、前回退院してからの生活状況、調子が悪くなるきっかけがなかったかについて話を聞きました。退院後はあまり体に負担をかけないように家事は孫が代行していたこと、薬は正しくBさんが管理していたこと、血圧や体重はノートにつけて管理し、就寝時のHOTも使用できていたことがわかりました。この時点で、心不全増悪因子となるような生活背景は見えてきませんでした。むしろ、疾患管理をBさんなりに頑張っていたことがわかりました。ただ、退院後6日での再入院であり、スタッフ間では「また戻ってきた患者」という雰囲気が漂い、増悪因子のアセスメント前に、患者要因の何かが原因で戻ってきたという先入観のもと、患者にかかわる看護師もいました。

 そこで、Bさんがどのように疾患管理を行っていたかをスタッフに伝え、現時点では増悪因子がはっきりとしないこと、本人が会話できるようになってからアセスメントすること、医学的要因が増悪因子の可能性もあることを伝え、管理不足が原因での再入院ではない可能性が高いことを伝えました。
 
 そうすることで、Bさんに対するスタッフの見方は変化していきました。ただ、前回入院時のエピソードとして、血圧上昇に伴う夜間発作性呼吸困難出現の経緯があったため、血圧が上昇するような要因が生活のなかに隠れているのかもしれないと考えながら、Bさんの看護に当たりました。実際Bさんは、吸引刺激やバッキングなどで収縮期血圧の上昇が110~130mmHg程度であってもPAPは25mmHgから45~50mmHgまで上昇し、その上昇は遷延していました。つまり、BさんのPAPは、血圧上昇率以上に上昇しやすい特徴がありました。血管トーヌスもしくはカテコラミン過敏反応などの可能性を考慮し、カルシウム拮抗薬が増量されました。
 
 また、どのような日常生活行動が血圧やPAPを上昇させるのかを、モニタリングしている間に把握しました。Bさんは、歯磨きや上肢を使って行う動作でPAPの上昇と、上昇した圧の遷延を認めました。動作後に元の圧に戻るのにどのくらいの時間を要したかをBさんとともに確認し、続けての動作で心臓には負担がかかりやすいことを感じてもらいました。そして、Bさん自身が自宅での生活において活動調整できることを目的に、これらの情報を理学療法士(PT)や病棟看護師と共有しました。
 
 ICUではさまざまなパラメータがモニタリングされています。その環境を生かしてケアに伴う血行動態の変化を注意深く観察し、今後の療養支援や治療に生かすことができます。急性増悪期の血行動態を観察するとともに、慢性期の療養支援に生かすことができる情報がないかを考えながら患者のケアに当たることも、急性期を担う看護師の役割になります。

セルフモニタリング支援
 ICU退室前夜、会話での呼吸数の上昇や血圧上昇がないことを確認し、増悪時の症状をBさんと一緒に振り返りました。Bさんは、しんどくなったときの状況を「胸がはりさけそうなくらい苦しかった」「しんどくなる日の朝はいつもより血圧と脈が高めだった」「義歯の手入れ中に苦しくなって、酸素を吸って休んでもよくならなかった」と話してくれました。
 
 実際に記載されている手帳を見て、しんどくなる数日前から血圧が普段より20mmHg程度、脈拍が+20拍程度上昇していることをBさんとともに確認しました。Bさんが体験した症状一つひとつを心不全と関連づけて説明し、それらが心不全増悪時の症状や徴候であったことを説明しました。また、自身の疾患管理の「何が悪かったのか」「退院して7日でまた入院なんて恥ずかしい……」と自分を責める発言がありました。
 
 そこで、Bさんの心不全増悪因子は、血圧コントロール不良であることを伝え、Bさんが行っていた疾患管理に問題がなかったこと、自身の体調の把握をしようと頑張って記録してきた手帳を見て是認するようなかかわりをもちました。そのうえで、心不全の症状や徴候が出現した際は、医療機関に相談することで入院回避につながる可能性があることを説明しました。そして、Bさんが自身を責めずに疾患管理が継続できるように、心臓リハビリテーションチームを介して多職種で情報を共有し、一般病棟に移った後も療養支援が継続されました。
 
 患者誘因でない増悪因子が再入院の原因であることも実際には多くあり、それは、病期の進行や、取り除けない増悪因子ということもあります。増悪因子の把握のためには、患者の生活を丁寧に聴きとることが必要です。そして、今回の増悪因子が何であったかを患者と共有することが大切です。体験した症状や徴候を心不全と結びつけることは再入院予防の教育的支援となります。
 
 モニタリングなどの疾患管理を継続するためには、「行うことの目的」や「患者にとってのメリット」を患者自身が理解することが大切です。患者がそのことを理解できるようなかかわりを多職種で協働して取り組む必要があると考えます。


まとめ
① 急性期は、疾患の重症度の理解や治療への反応に注意しながら、処置や検査、治療がスムーズに進むように支援し、かつ声にならない患者の訴えをくみ取ることで、心負荷軽減や苦痛緩和に努める!
② 急性期は酸素消費量を減らすケアが優先されるため、二重負荷となるようなケア提供の方法やタイミングは避け、看護師の都合でケアをしない!
③ 急性期から始める療養支援では、慢性期の療養支援に生かすことができる情報がないかという視点と、急性増悪時の体験を今後の療養支援に生かすという視点をもってかかわる!

引用・参考文献

1) 日本循環器学会,他編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).2011,p.15.
2) 日本循環器学会,他編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).2011,p.8.

参考図書

①布宮伸:重症患者の痛み・不穏・せん妄実際どうする?~使えるエビデンスと現場からのアドバイス.羊土社,2015.
■おすすめ理由 集中治療室で必要な重症患者の痛み・不穏・せん妄についての実践的な知識が、基本からコアな部分まで網羅されています。最新の知見やエビデンスのもとになった文献リストの記載もあり、興味がわいた部分をさらに追及することができます。
②山内豊明:フィジカルアセスメント ガイドブック―目と手と耳でここまでわかる 第2版.医学書院,2011.
■おすすめ理由 呼吸と循環が維持されているかはどのようにして判断すればよいかなど、フィジカルアセスメントの思考過程が見えるような本です。第2版では、呼吸循環を統合した章が新たに設けられ、心不全患者のフィジカルアセスメントの考え方の項目が追加されています。臨床現場でフィジカルアセスメントする際に役立つ情報が多く取り上げられています。

(ナース専科2018年4月号より転載)

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