【連載】「できる」に注目する高齢者看護

Challenge! 高齢者ケア~高齢者のみかたを変える~

執筆 桑田 美代子(くわた みよこ)

青梅慶友病院 看護介護開発室長・老人看護専門看護師


目次

※「高齢者や認知症に対するみかたのバリア」以下の閲覧はログイン(登録無料)が必要です。


1.はじめに―――逆転の思考

 青梅慶友病院(以下、当院)は2018年現在、許可病床数736床、入院患者の平均年齢約89歳、平均入院期間3年5カ月、9割が認知症を有し、9割が死亡退院する「終の住処」の役割を担った療養病床です。
 
 入院時から死を見据え、人生の最晩年の生を支えるケアを多職種とともに追求してきました。その実践を通し学んだことは、80歳、90歳の老いの経験がない私たちが、未知の世界を生きる高齢者のケアを考えるとき、真伨な姿勢と既存の発想にこだわらず、みかたを変えてみることの大切さです。
 
 「できない」ではなく「どうしたらできるのか」、「問題」と思う高齢者の行動も、みかたを変えればケアする側の捉え方が問題である場合も少なくありません。みかたを変える逆転の思考は、高齢者ケアへのチャレンジにつながると考えています。
 

2.高齢者や認知症に対するみかたのバリア

 「高齢者や認知症高齢者に対するイメージは?」と尋ねられたら、「何事にも時間がかかる」「わかっていないのに“わかった”と答える」「頑固」「大変」と答える方が多いのではないでしょうか。
 
 「バリア」とは、障壁(妨げ)のことです。こうした老いや老化、認知症の理解を妨げるバリアが皆さんたちのなかに存在していると考えたことはないでしょうか。
 
 例えば、認知症高齢者をアセスメントするとき、看護師の認知症に対する知識不足はバリアになり、私たちが対象の不安や苦痛を想像することが難しくなります。実際には、ケアする側が不適切な対応をしたにもかかわらず、認知症高齢者の行動だけが注目され、看護師から「不穏」や「問題行動」として捉えられ、片づけられてしまう現状はないでしょう。
 
 なぜ、そのような行動をとったのか、認知症高齢者の不安や苦痛に焦点が当てられていない。だから、起きている状態の根本の原因がみえず、認知症高齢者の苦痛の軽減もされない。その結果、何の解決にもならず、スタッフ自身もケアの効果が実感できず、ただ「大変」という結論に至っていることが多いように思います。
 
 また、「歳だから仕方がない」という年齢だけに着目した高齢者への差別的偏見(エイジズム)も、気持ちのどこかに潜んではいないでしょうか。つまり、老いや老化、認知症に対してケアする側のみかたが、アセスメントやケアを考えるうえでバリアになり、影響を与えていることに私たちが気づくことが大切なのです。
 
 自分自身のなかにある「老い・老化」や「認知症」に対するバリアに気づくことは、新たな発想、みかたを変える第一歩です。私たち自身も加齢・老化に向けて生きています。誰にでも訪れる自然の摂理です。将来自分が高齢者になったとき、どのような対応をしてほしいのか問われていることだと、筆者は考えています。自分のなかにあるバリアを自分自身に問いかけ、考えてみてください。

3.複眼的なみかたが求められる高齢者ケア・チーム医療の調整役を担う看護師

 表1に「老化による日常生活への影響」を示しました。これらの内容は基礎教育で学習する基本的なことです。この基本がとても重要です。
 
表1:老化による日常生活への影響
表1:老化による日常生活への影響
 
 しかし、高齢者が「患者」になると、意識されなくなることが多いように感じています。病ではなくても、加齢・老化が日常生活に与える影響を看護師が認識しておくことは、高齢者の生活の質(quality of life:QOL)の低下を防止するためにも重要なポイントです。
 
 例えば、「感覚・知覚」の変化は、私たちが考えている以上に高齢者の生活に不自由さを与えます。難聴がある人は、聞こえず理解できていなくてもあいまいな返答をするため、認知症に間違えられやすい傾向があります。つじつまが合わない返答をするだけで、「認知症」と考える傾向はないでしょうか。
 
 また、在宅ケアを考えた場合には、便秘は家族にも負担となるため、便性状や排便習慣に注目する必要があります。しかし、入院し便秘になったとき、患者の排便習慣や便性状を考えているでしょうか。さらに、筋力・平衡性・柔軟性の低下により、身体のバランスは保ちにくくなります。つまり、老化することで転倒のリスクが高まるのは当然のことです。そして、それは私たちも同じことです。
 
 加齢・老化による影響と同時に、高齢者は慢性疾患を抱えている場合が多く、認知症を合併していることも少なくありません。加齢に影響を受けやすい認知機能は、認知症と診断されていなくても、暦年齢から考えて年相応のもの忘れなどがあるケースも多くあります。それはめずらしいことではありません。これらのことから、病や老い、認知症を絡めた複眼的な高齢者のみかたができる能力を看護師が身につける必要があります。
 
 高齢者の場合、老化の過程も千差万別です。個別性がとても高いのが高齢者であり、老いと病が複雑に絡みあっている状況のなかで、明快な結論が導き出せないことも多くあります。そうしたあいまいさを理解したうえで、高齢者にとっての最善を模索しながら、多職種チームでケアを提供することが、老年看護の魅力でもあります。
 
 そのとき、多職種間の調整役は看護師が担います。なぜならば、チーム医療のメンバーのなかで、「医療」と「生活」の両方の視点をもつ医療専門職は看護師だけだからです。だからこそ、ほかの専門職の役割・機能を理解し、その専門性を活かすための調整役にふさわしいのです。そして、この役割を担えるのが、中堅看護師の皆さんだと確信しています。
 
 高齢者の複雑な現象を紐解くことは、高齢者ケアの醍醐味でもあります。これまでの経験知をぜひ、活かしてほしいと願っています。
 

4.高齢者を肯定的にみる―――“できること”に目を向ける

 問題解決思考で看護基礎教育を受けている看護師の多くは、患者の問題点だけに着目する傾向があるように感じています。
 
 もちろん、その視点が大切なこともあります。しかし、高齢者の場合、問題点だけに着目されてもQOLは高くなりません。残っている機能に目を向ける、“できる”部分に着目し、残存機能を活かすみかたに変えることはできないでしょうか。
 
 老化のプロセスは喪失です1)。身体機能が徐々に低下することは、当然です。だからこそ、残された機能に着目するみかたをし、その機能を活かすケア計画を立案することが、人生の最晩年にある高齢者のQOL向上につながります。
 
 図1に高齢者を肯定的に捉える効果を示しました。高齢者の行動を肯定的に捉えるとは、「○○ができない」ではなく、例えば、「トイレの便座への移動はできないが、下着の上げ下ろしはできる」とか、「言語的コミュニケーションは難しいが、視線を合わせ何かを伝えられていることは感じられる」など、些細なことでもよいので、患者の機能を肯定的に捉えようとすることがみかたを変える一歩です。そうすることが、高齢者の能力に気づくきっかけになり、そのかかわりを通してケアの効果を実感できることにつながります。高齢者を肯定的に観察し、残存能力を活かすみかたが、高齢者のQOLの向上を左右する大きなポイントとなります。
 
図1:高齢者を肯定的にみることによる効果
高齢者を肯定的にみることによる効果
四垂美保:第3章1スタッフ教育の方法 高齢者のエンドオブライフ・ケア・実践ガイドブック 第2巻死を見据えたケア管理技術 桑田美代子.他編 中央法規出版 2016.p.59より転載、一部改変
 

5.高度日常生活動作(AADL)―――「その人らしさ」を大切にするために

 高齢者の“できること”に目を向けるとき、外出や買い物、食事の準備、服薬、金銭管理、電話の使い方といった生活の視点である手段的日常生活動作(instrumental activity of daily living:IADL)と、入浴、排泄、移動、着替え、食事などの基本的日常生活動作(basic activity of daily living:BADL)を思い浮かべると思います。生活を整えるために、これらの視点は必要です。加えて、高度日常生活動作(advanced activity of daily living:AADL)の視点も忘れないでください。AADLとは、「その人らしさ」を定義する活動や動作を指します2)。これは社会的役割の遂行、人生を楽しむための能力です。先にも述べましたが、人の一生は喪失の連続であり3)、加齢に伴い社会的役割を喪失のします。
 
 しかし、社会のため、人のために役に立ちたいと思う気持ちがあるのは当然のことです。ですが、高齢者のそのような気持ちに看護師は目を向けられているでしょうか。
 
 また、編み物や囲碁・将棋など、趣味活動を楽しみにしている高齢者も多くいます。「まだまだ若い者には負けない」と思い、楽しんでいる人もいるでしょう。しかし、徐々に以前のようにうまくできなくなるときが来ます。その喪失に対する思いに、寄り添える看護師であってほしいと思います。AADLは一人ひとり異なるので、その人固有の変化が非常に重要であり、他人と比較してもあまり意味がありません4)。だからこそ、その高齢者のLife(人生・生活)に焦点を当て、その人を知ろうとするケアを行う姿勢が求められます。
 

6.倫理的感受性をみがく

 高齢者のみかたを変えても、決して変えてはならないことがあります。それは、看護師は高齢者の擁護者であるということです。日頃の高齢者ケアのなかで、気持ちがモヤモヤすることはないでしょうか。例えば、高齢者を子ども扱いする態度、プライバシーの保護がなされていない対応、冷めたタオルで清拭をされるなど、自分ならば提供されたくないケア場面に遭遇することはないでしょうか。
 
 日常倫理とは、「看護実践の中心であり、専門技術に意味を与え、看護ケアの目的になるものである」といわれています5)
 
 高齢者ケアの現場では、全介助状態の高齢者や認知症の人からケアの評価や反応が得られにくい状況があります。そのため、食事介助や排泄ケアなど、スタッフは毎日繰り返される日常生活のケアの目的や意味を見失いがちになります。しかし、全介助を必要とする高齢者にとって、日々のケアが丁寧に行われているか否かで、QOLに大きな影響を与えます。
 
 日々のケアのなかで、ケアの開始・終了時に高齢者に声をかけているか、無理強いするような食事介助になっていないか、体位を変えるとき、勢いよく行っていないかなど、一見些細と感じるようなことが日常倫理として問われています。言語的に返答はなくても、最期まで意思ある存在として認めた対応を行い、かつ、日々丁寧に繰り返されるケアこそ価値あるケアであり、高齢者の尊厳の保持につながるケアです。しかし、医療行為にだけ目が向いてしまっているのが現状ではないでしょうか。
 
 「認知症高齢者は意思決定ができない」といわれることがあります。たしかに、言語的に意思を確認することが難しい場合もあります。ですが、日々のケアのなかで、「これは気持ちよい」「これは嫌なのだ」と高齢者の意思に注目しているでしょうか。日々の意思に注目せずして、医療行為の意思決定支援が行えるとは思えません。高齢者の微弱なサインを察し、汲み取るとともにスタッフ間でモヤモヤすることを語り合い、倫理的感受性をみがいて、ケアに活かしてほしいと考えます。
 

7.Challenge! 高齢者ケア

 主要国のなかでも、高齢者人口が最も高いのが日本です(図2)。他国がいまだ経験していない超高齢多死社会を迎えています。みかたを変えると、日本の高齢者ケアは世界の最先端といえます。
 
図2:主要国の高齢者人口の割合比較(2017年)
図2:主要国の高齢者人口の割合比較(2017年)
 
 つまり、私たちは新しい高齢者ケアを創造する役割が課せられているのです。高齢者のみかたを変えるということは、私たちの意識変革が求められていることです。高齢者が変わるのではなく、私たちの思考・行動が変わらなければなりません。そんな現状だからこそ、中堅クラスの看護師の皆さんにとっては、これまでの経験知を活かす絶好のチャンスです。新しい高齢者ケアにChallengeしてくださることを大いに期待しています。
 

引用・参考文献

1)黒川由紀子, 他:第3章 高齢者の心理療法. 5 高齢者の死. 老年臨床心理学――老いの心に寄りそう技術. 有斐閣, 2005, p.129-38.
2)大蔵暢:「老年症候群」の診察室 超高齢社会を生きる. 朝日新聞出版, 2013, p.31.
3)Corless IB, et al:Textbook of Palliative Nursing. 2nd ed. Ferrell BR, et al, ed. Oxford University Press, 2006, 531-44.
4)大蔵暢:「老年症候群」の診察室 超高齢社会を生きる. 朝日新聞出版, 2013, p.31.
5)谷本真理子, 他:高齢者ケアにおける日常倫理に基づく援助技術. 日本看護科学会誌 2010;30 (1):32-5.
●総務省統計局:統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)――「敬老の日」にちなんで――(2018年2月12日閲覧).
http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1030.html
●湯浅美千代:認知症をもつ患者への対応と管理者の役割. 看護展望 39 (6):23, 2014.
●日本緩和医療学会:ELNEC-Jコアカリキュラム指導者養成プログラム. モジュール, 2017.
●井出訓, 他:第4章 高齢者のアセスメント. 系統看護学講座専門分野Ⅱ老年看護学(第8版), 医学書院, 2014, p.89-114.
●桑田美代子:第3章 1スタッフ教育の方法. 高齢者のエンドオブライフ・ケア実践ガイドブック 第2巻 死を見据えたケア管理技術. 桑田美代子, 他編. 中央法規出版, 2016, p.59.
●湯浅美千代, 他:新たな技術の体系化へのチャレンジ 技術体系③;高齢者ケア. 臨床看護 2010;臨時増刊号 36 (12):1590-600.

(ナース専科2018年6月号より転載)

ページトップへ