【連載】「できる」に注目する高齢者看護

高齢者ケア・認知症ケアは病棟師長(看護管理者)で決まる!~みかたを変える看護管理~

執筆 四垂 美保(しだれ みほ)

青梅慶友病院 病棟師長・認知症看護認定看護師


目次

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 病棟師長の皆さんは、認知症ケアについてどのくらい関心をもっているでしょうか。自分の親だったらどのような認知症ケアを受けてほしいか、自分だったらどのような認知症ケアを受けたいか、自分の病棟の認知症ケアを受けたいと思うかなど、考えてみてはいかがでしょうか。
 
 病棟の認知症ケアの質は、病棟師長が認知症ケアをどのように理解し、病棟で推進していこうとしているかに左右されます。つまり、病棟師長の考えにスタッフも影響を受けるのです。さまざまな認知症ケア環境のなかで、認知症患者(以下、患者)の対応にジレンマを感じているスタッフもいます。スタッフは、患者にみられる認知症の中核症状・BPSD(行動・心理症状)をマイナスイメージで捉え、ケアの困難さ・負担感を感じ、患者の苦痛に気づけないまま、目の前で起こっている行動を抑えるような対応になりがちです。
 
 症状の軽減を図るための薬物療法で、生活の質(QOL)の低下を招いているケースもあります。中には、スタッフが不適切な対応だと気づいていても、ケアの改善に向けて一歩を踏み出せずにいることもあります。スタッフが不適切であるという思いをもちながらケアをすることがないように認知症ケアを改善することが、患者もスタッフもハッピーになることにつながるのではないでしょうか。
 

1.病棟師長が病院の理念をもとに病棟を牽引する

 病棟では病院の理念をもとに目標を立案し、運営しています。当院の場合、理念は「認知症ケアの基本」であることをスタッフに周知し、毎年病棟の目標を立案、具体策を考えています。このとき、チームリーダー(病棟におけるリーダー的立場にある看護師)が中心となって進めますが、必ず「患者中心であること」という視点を忘れないようにします。そして、病棟全体や各チームの状況、スタッフのケアの傾向や問題点、患者家族の要望などを踏まえ、考えられるようにスタッフを指導します。
 
 さらに、病院の質管理のさまざまなデータから、客観的に自病棟をみること、他病棟との違いなどにも目を向けながら考えられるようにすることもチームリーダーには必要な力です。病棟師長はチームリーダーがしっかりとチーム運営をしていける力を高めていけるよう意図的にかかわりをもち指導していきます。そして、どのような理念や目標のもとで病棟を運営し、具体的にどのように進めながら病棟づくりをするのか、病棟師長が目指す病棟像をしっかりと描きながら、チームリーダーやスタッフを牽引していかなければなりません。
 

2.病棟師長が認知症の知識をもつ

 病棟師長は、認知症についての知識をもちましょう。目の前の患者に起こっている行動について、その行動の理由を紐解き、考えていくことができなければ、スタッフに適切なアドバイスはできませんし、スタッフを育てることもできません。
 
 例えば、排泄ケアを嫌がりスタッフに攻撃的になる患者に対して、「とても困る」と眉をひそめるのではなく、どのような状況で排泄ケアが行われているのか、まず確認してほしいのです。2~3人のスタッフで患者を取り囲み、怖い表情で一斉に強引に排泄ケアをしているのかもしれません。このとき、スタッフは患者のケアを遂行するために一生懸命であり、自分たちのケアを振り返る余裕もないのです。
 
 そのようなスタッフの状況も汲み取りながらアドバイスができたなら、スタッフのケアはどのように変わるでしょうか。病棟師長が声をかけ、患者の思いや排泄ケア時のスタッフから受ける印象について考える機会をつくることで、スタッフは、自分たちが排泄ケアを終えることばかりを考え、患者に与えている恐怖や不安、そして患者の羞恥心に目を向けることを忘れていたと気づくでしょう。
 
 そのことに気づけば、スタッフは対応を変えることができ、スタッフの対応が変われば、患者もケアを受け入れるように変わってきます。これをきっかけに、患者へのケアをさらに深めることにもつながります。このようなことから、スタッフはケアの達成感を感じることができ、その経験がほかの患者へのよいケアにつながります。病棟師長がスタッフ自身にケアを振り返る機会をつくることで、ケアが変わり、ケアが変わることで患者も変わるのです。
 
 認知症ケアの質向上は、病棟師長が「病棟の認知症ケアをもっとよくする」と決意することから始まります。そして、認知症の知識として、認知症の原因となる疾患、認知症により生じる認知機能障害、認知機能障害が与える社会生活や日常生活への影響、認知症の発症から終末期までの経過などについて理解することが必要です。それらの知識を活用し、患者の行動を紐解きながら、今後患者に起こりうる経過も踏まえ、ケアを考えることができるようスタッフに指導するのです。
 
 また、患者の行動を肯定的に捉える発言をあらゆる場面で意識的に行うことで、スタッフの患者へのみかたを変えるきっかけづくりとなります。病棟師長がモデルとなり、楽しみながら認知症ケアをしている姿をスタッフにみてもらうことも、よい影響になるのではないでしょうか。
 

3.カンファレンスを活用する

 認知症ケアは1人の優れたスタッフがいればできるわけではありません。スタッフ全員で統一したケアを継続することが必要です。加えて、認知症患者のケアは、「How to」でできるものではなく、患者の状態に合わせ個別に考える必要があります。病棟師長は、他職種の専門的立場からの意見や、スタッフ個々がもっている患者やその家族のさまざまな情報を共有し、患者のケアについて意見を出し合う場を意識的にもつ必要があります。その1つがカンファレンスです(図1)。病棟師長がカンファレンスの重要性を認識し、短時間でもカンファレンスの時間を確保することが、スタッフの認知症ケアに対するみかたを変えることにつながります。
 
図1:カンファレンスの活用
図1:カンファレンスの活用
 
 具体的には、言葉で苦痛や思いを訴えることができない患者の行動を「問題」として捉えるのではなく、まずその原因を考えることができるように、個々の患者の行動の背景にあるものを、スタッフ自らが考えることができるように導きます。
 
 また、患者の生活史を活かし、かかわりのなかにその話題や生活習慣を取り入れることができるように進めます。患者だけでなく、患者の家族の思いや要望を共有することも大切です。そして、これまでのケアを振り返り意見を出し合うことで、患者や家族の好みや要望を反映したケアを考えられるようにしていきます。
 
 このとき、チームリーダーや中堅の看護師が、患者の特性を踏まえてニーズを捉えたうえでケアを工夫している点や効果的だったケアについて、また家族とのコミュニケーションなどから新たに得た患者の情報などについて率先して意見を出すことで、活発なディスカッションができます。カンファレンスは、スタッフにとってはよい学習の機会でもあります。そのなかで病棟師長は、認知症の基本的な知識や患者の状況を踏まえたケアの考え方、家族とのコミュニケーション方法などを伝えていきます。
 
 スタッフは、カンファレンスで出された案を実施することで、あらゆる場面で患者に残された能力に気づくことができます。そして、患者に残された能力が引き出されると、患者の変化を感じ、スタッフのケアに対する意欲向上にもつながるのです。
 
 多様なケアの経験から、スタッフは認知症患者のケアにおいて、大変な時期は続くものではなく、進行の過程に伴いさまざまなことができなくなることを学びます。そのことを踏まえ病棟師長は、「大変」だからと薬物療法ばかりに頼るのではなく、ケアを頑張る時期も必要であるということ、患者の「楽しめる今、できる今」を大切にしながら、スタッフもその時々を楽しみながらケアできるようになることを推進していかなければなりません。
 

4.チーム力を高める

 認知症ケアには、チームメンバーの協力や連携が欠かせません。ケアを嫌がる患者に時間をおいて再度試みる場合、マンツーマンの対応が必要な患者に付き添う場合など、チーム内でのカバー体制が必要になります。
 
 チームリーダーが中心となり、ケア開始前に、その日に予測される患者対応について、チームメンバーと共有し、ケアの組み立てや分担を話し合います。
 
 その話し合いの結果をもとに、コミュニケーションを図りながらケアを進めるとスムーズです。インカムの活用なども効果的であり、スタッフ皆の動きが共有できることで、適宜チームリーダーが指示を出してメンバーの動きを調整したり、メンバーの状況に応じて、カバーできるメンバーが率先して声をかけるなどスムーズに連携できます。このような連携ができることで、スタッフは心にゆとりをもちながら患者のケアに向き合うことができます。
 
 病棟師長はチームメンバーの連携の様子を日々確認しながら、チームの問題点、課題について把握します。リーダーシップだけでなく、個々のスタッフがメンバーシップを発揮できることが、チーム力を高めることにつながります。そのことをチームリーダーとの話し合いの場で提案し、チームづくりについて考えてもらうようにします。
 
 そのほか、病棟の年間・月間目標の立案と評価、病棟の患者ケアにおける問題点の確認と改善策、患者へのケアの時間をさらに確保するために必要な病棟の業務改善などについて、チームメンバーからの意見を吸い上げ、改善策を考える場としても活用できます。チームリーダーが話し合いを運営し、課題を挙げ対応策を具体的に考えていくことが、チームリーダーの成長につながります。その結果、チームリーダーを中心に、チームメンバーが自由に意見を出し合え、よい影響を与え合う雰囲気づくりを行うことで、チームがスタッフを育てられるようになります。
 

5.病棟師長がスタッフに目を向ける

 病棟師長は、日々のスタッフとのかかわりのなかで、スタッフが困難に感じていること、対応に苦慮していることなどに注目し対話の機会をもつとともに、患者の状態やスタッフ自身の対応について振り返りができるようにし、成功体験につながるように考える必要があります。このとき、ケアの根拠づけを意識しながら行うことが大切です。
 
 その際、スタッフ個々の病棟での役割を念頭に置いて意図的にかかわることで、スタッフの成長やチーム力のアップにつながるようにします。少なくとも1年に1~2回はスタッフと面談する機会をつくり、スタッフ個々の事情や考え、困りごとなどを知る機会とし、スタッフの個別性を踏まえた指導や相談ができるようにします。また、スタッフのケアのよいところを認めたうえで、今後の努力点についても伝えます。
 
 チームリーダーには、スタッフの成長を伝え、その指導やリーダーシップに対して感謝の言葉を忘れないようにします。そして、スタッフを認めることで、スタッフのやる気や元気を引き出し、ケアへの意欲を高めていけるようにします。
 
 注意したいことは、とかく新人や経験年数の浅いスタッフにまず目を向けがちになりますが、チームリーダーや中堅看護師もまた、その責任から悩みや不安を抱えがちです。にもかかわらず、それを表出せずに頑張っていることがあるのです。そのような状況を病棟師長が察知し、声をかけ、後回しにしないで対応する必要があります(図2)。ほかに、スタッフが相談しやすい雰囲気づくりをすることも必要です。そして、病棟師長が、自分はどのような認知症ケアを行っていきたいと考えているのかということ、今後の病棟づくりについてのビジョンなどについて、いつでもスタッフと話すことができる環境づくりも大切であると考えています。
 
図2:病棟師長のスタッフへのかかわり方
図2:病棟師長のスタッフへのかかわり方
 

6.ケアに取り組みやすい病棟環境づくり

 当院は、病棟独立運営制となっており、人件費以外の予算を病棟師長が管理しています。そこで、患者のケアのために必要なもの(例えば、衣類、靴、オムツ、さまざまな口腔ケア用品、個々に合った食事用スプーン、代替え食品など)を速やかに調達し活用できるようにしています。つまり、スタッフがスムーズにケアにあたることができるように調整しているのです。
 
 また、患者の状態に応じて人員配置を調整し、患者のケアに最善を尽くすことができるように環境を整えることも、時には必要です。例えば、病棟の質管理のデータをもとに、食事全介助患者の増加に伴い、一定期間、食事介助スタッフの配置を増やすことを病院側に調整、その後の状況を確認し、継続の必要性について判断します。このようなことが、患者へのオーダーメードの個別的ケアにもつながります。
 

7.認知症ケアのかなめは病棟師長

 冒頭でも述べたように、病棟師長の認知症に対するケアの考え方が、スタッフに大きく影響します。認知症ケアは大変と考えるのではなく、患者の行動を紐解くことによって、患者にとっては当たり前の行動なのだと考えることができると、患者のみかたが変わります。
 
 そのためには、病棟師長の皆さんが、認知症の知識をもち、楽しみながら患者のケアを実践しましょう。その姿をスタッフはみています。
 

参考文献

●湯浅美千代, 編:看護師認知症対応力向上研修テキスト 第4版. 東京都福祉保健局高齢社会対策部, 2016, p.62-75.
●小川朝生:あなたの患者さん, 認知症かもしれません. 医学書院, 2017, p.19-50.

イラスト/ふるやますみ
(ナース専科2018年6月号より転載)

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