【連載】「できる」に注目する高齢者看護

リスクはあっても尊厳は保つ!~高齢者の生活に重点をおいた感染対策~

執筆 野呂 修平(のろ しゅうへい)

青梅慶友病院 感染管理認定看護師


目次

※「2.感染症に対する知識不足」以下の閲覧はログイン(登録無料)が必要です。


高齢者の感染管理における課題

1.標準予防策の不徹底できていそうでできていない手洗い

 高齢者は、加齢に伴い生体防御機能が低下し、感染しやすくなるといわれています。病原性の低い微生物でも感染症を発症することがあり、重症化しやすく、注意が必要です。
 
 特に、入院中の高齢者は、食事や排泄、移動や口腔ケアといった日常生活のさまざまな場面で援助を要することが多くなります。つまり、看護師が接触する機会が増えるということです。感染の原因となる微生物を拡散している大きな要因の1つは、私たち看護師の「手」なのです。感染管理の要は標準予防策の徹底です。正しい「手洗い」はできているでしょうか。
 

2.感染症に対する知識不足

 皆さんには「高齢者が“感染源”になりがち」という誤った認識はないでしょうか。このような看護師の誤った認識は、高齢者に疎外感を与え、生活を不要に制限してしまうことになりかねません。過剰な対応により生活が制限されると、身体機能や精神活動の低下につながります。
 
 高齢者が可能な限りこれまでと同じような生活が送れるよう、看護師は感染経路などについての正しい知識をもち、過剰でもなく、過小でもない対応を行えなければなりません。看護師が正しい知識で対応することが、高齢者の生活の質(QOL)に大きく関与していることを認識する必要があります。
 

3.薬剤耐性菌対策現状での最善をチームで考える

 高齢者は急性期における治療過程や環境により、薬剤耐性菌を保菌してしまうことが少なくありません。薬剤耐性菌を拡大させないためには、個室管理や接触予防策が求められています。
 
 特に長期療養型病院や高齢者施設などにおいては、急性期の医療機関と比べ、入院生活は長期間になります。そこで、病院・施設の機能や患者の症状などをもとに、感染のリスクをアセスメントし、患者の生活を可能な限り制限せずに、感染を広げないための工夫が必要となります。
 
 その際、自組織のなかで行える方法を考えることが必要です。個室がない場合には、多人床室のなかでゾーニングをどのようにするか、使用する物品は可能な限りディスポーザブルが望ましいですが、難しい場合には感染防御の視点で消毒や物品の管理方法を検討するなど、自組織の環境下で行える最大限の方法について事務スタッフも含めた多職種チーム(感染対策委員会など)で共通の認識を得ていくことが重要なポイントになります。
 

青梅慶友病院における具体的な取り組み

 当院は、長期療養型の施設であり、患者を「生活者」として捉え、日々ケアを行っています。そのなかで感染予防を優先することで患者の生活を脅かさないよう、ケアにあたるスタッフの標準予防策の徹底を基本としながら、可能な限り自由な雰囲気を大切にしています。
 

「生活」に重点をおいた感染対策の教育の実施

 感染症を広げないための基本は先にも述べたように標準予防策です。手洗いについては、手洗いチェックなどさまざまな形で研修を行っていますが、手洗い方法をカード化し、直接ケアにかかわるスタッフ約600名に常時携帯させています(写真1)。
 
写真1:感染標準予防策カード
写真1:感染標準予防策カード
 
 また、院内で行われる各研修のなかで、標準予防策の考え方や、ケアのなかにおける手洗いのタイミングなど、実演を通して伝えています(写真2)。そして、感染症に対して、スタッフが過度な不安を抱かないよう、ルールを守れば、患者だけでなく、自分自身も守れるということを繰り返し伝えています。
 
写真2:感染標準予防策カードの活用
写真2:感染標準予防策カードの活用

観察力の向上とチェックリストの活用

 高齢者は感染症を発症しても顕著な反応が現れにくく、疾病によっては症状を訴えられない人もいます。認知症が進行すると感染関連の症状の有無を、言葉で伝えることが困難になります。
 
 そこで看護師の観察力が求められますが、普段の状態を把握していないと、変化の見極めが行えません。つまり、個々の患者の既往歴や現在の状態から感染リスクを考慮し、「いつもの様子」と比較して発熱、嘔吐、下痢、咳、食欲、顔色、落ち着きのなさといった変化に気づかねばなりません。
 
 当院ではインフルエンザやノロウィルスの早期診断に向け、発熱時と嘔吐・下痢時のチェックリストを医師とともに作成しています(表1)。毎年シーズン前に内容の確認を医師と行っています。チェックリストを活用することで、不要な行動制限を強いることがないようにします。
 
表1:ノロウイルスのチェックリストの内容例
表1:ノロウイルスのチェックリストの内容例

3.家族への意識づけ

 当院では年数回、家族対象の通信誌を発行しています。感染症シーズンに入る前には、その通信誌のなかで、当院における感染対策を説明し、体調が悪い場合は面会を控えてもらうようにお願いをしています。そして、家族を対象に手洗い講習会を開催し、感染予防の協力もお願いしています。
 
 しかし、ノロウィルスのシーズンであっても家族からの食品の持ち込みを禁止にはしていません。当院は9割の患者が死亡退院する施設です。そのため、患者にとって人生最期の楽しみの1口になる可能性もあるからです。ただし、面会の有無や持ち込みの食べ物の有無は、ノロウィルスを鑑別する際に、大切な情報となるため、家族には持ち込んだ食べ物を伝えてもらうようにしています。
 

4.メリハリをつけて感染症に対する意識を向上

 インフルエンザやノロウィルスは発症すると拡大しやすく、集団感染を起こすと、患者の生活を制限しなければならなくなります。感染症流行期には、より一層感染症に対する意識を高める仕組みを設けています。
 
 例えば、毎年ノロウィルスが流行期に入る11月初旬、全スタッフ(食事介助・入浴介助等の短時間パート職員や外部委託業者を含む)を対象に、感染性胃腸炎についての研修を実施します。同じ内容で合計4回講義・実演を開催しています(写真3)。参加できなかったスタッフ用としてDVDを作成し、内容を伝達する工夫もしています。また、研修後には実際に行動として行えるかチェック表を用いて確認しています(表2)。
 
写真3:研修の様子
感染性胃腸炎研修の様子
パート職員研修の様子
 
表2:感染性胃腸炎チェック表
表2:感染性胃腸炎チェック表
 
 ノロウィルスは、感染力が強く、処理を誤ると容易に感染を広げてしまいます。特に嘔吐は急に起こるため、感染拡大のリスクが高くなります。当院では、急な嘔吐にもすぐに対応できるようビニール袋、マスク、ディスポーザブル手袋を「嘔吐セット」(写真4)と称して看護・介護・リハビリスタッフに携帯を義務づけています。
 
写真4:嘔吐セット
写真4:嘔吐セット
 
 また、嘔吐や下痢が起きた際に直に処理が行えるよう、各病棟にインフェクションボックス(下痢・嘔吐物の処理に必要な物品をまとめたもの)を設置しています。インフェクションボックスは1カ所だけでなく複数カ所に配置し、配置場所をスタッフに周知徹底しています。
 

5.情報の共有

 患者にインフルエンザやノロウィルスが発生した場合、当該病棟は直ちに事務所に報告。事務所は関連部署へFAX送信し、情報を共有する仕組みにしています。また、インフルエンザやノロウィルスは外部の人が院内にもち込む確率が高いため、スタッフやそのスタッフの家族が発症した場合も事務所へ報告し、感染対策チームが状況を把握しています。
 

6.感染解除の目標を定める―――ADLを下げない

 ノロウィルスの場合、嘔吐・下痢が消失してから48時間経過するまでは自室で過ごしてもらいます。その後のリスクを考えて、必要な期間はたとえ認知症があり、病室内で過ごせない患者であっても徹底します。インフルエンザの場合も、解熱後48時間は自室で過ごしてもらいます。専属スタッフを1人つけることもあります。発症者のみならず接触者も発症する可能性が高い場合は同様の対応をします。
 
 このように必要な期間、必要なことを徹底することで、ほかの患者を守るだけでなく、最短期間で元の生活に戻れることを目標に対応しています。当院では病棟師長が責任をもって、その旨を家族に説明する仕組みになっています。とにかく、患者のADLを低下させない視点をもち、スタッフにも感染対策解除のゴールがみえる取り組み方法が重要です。
 

参考文献

●塩塚優子:第6章 2感染管理におけるケア管理実践. 高齢者のエンドオブライフ・ケア実践ガイドブック第2巻 死を見据えたケア管理技術. 桑田美代子, 他編, 中央法規出版, 2016, p.139-50.
●渋谷智恵:認知症者の感染予防, 認知症ケアガイドブック. 日本看護協会編, 照林社, 2016, p.161-8.
●大曲貴夫, 他:部門別感染予防対策 15高齢者施設・在宅領域, 感染管理・感染症看護テキスト. 照林社, 2015, p.375-9.
●満田年宏, 訳著:隔離予防策のためのCDCガイドライン医療環境における感染性病原体の伝播予防2007, ヴァンメディカル, 2007.
●矢野邦夫, 監訳:CDCガイドライン医療環境における多剤耐性菌の管理2006年. 丸石製薬, 2006.
●国際的に驚異となる感染症対策関係閣僚会議:薬剤耐性対策(AMR)アクションプラン2016-2020(2018年1月10日閲覧).
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

(ナース専科2018年6月号より転載)

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