【連載】「できる」に注目する高齢者看護

いつでも・どこでも・誰でもレクチャー~認知症対応力向上を目指した院内教育ガイドの作成~

執筆 後 智子(うしろ ともこ)

青梅慶友病院 老人看護専門看護師

協力 嵐田 順子

協力 鈴木 忍

協力 宮崎 澄子

協力 西野 信賢

協力 坂本 優子

協力 春木 晴子

協力 桑田 美代子(くわた みよこ)

青梅慶友病院 看護介護開発室長・老人看護専門看護師


目次

※「2.院内教育ガイドの作成」以下の閲覧はログイン(登録無料)が必要です。


1.認知症対応力向上を目指した院内教育ガイド作成の経緯

 日本の後期高齢者人口、認知症高齢者人口が急増するなかで、療養場所を問わず、看護師には、加齢に伴う認知機能障害や認知症について知識をもち、適切なケアを行うこと、介護者への支援や指導的役割を担うことが求められています。
 
 当院は、入院患者の平均年齢が約89歳、9割が認知症を有する療養病床です。「豊かな最晩年の創造」を理念に掲げ、「苦痛がない」「惨めでない」「大切にされている」ことを尊厳の保持と考えて理念を具現化するケアを行ってきました。
 
 ケアの前には了承を得、ケア後は心地よさを確認する、転倒のリスクはあっても尊厳を保つことを考え、身体拘束はせずに本人の意思を尊重しつつ事故予防するなどです。当事者主体のケアの遂行は認知症ケアにおいて基盤となるものです。
 
 そして、さらなる認知症対応力の向上、すなわち認知症高齢者の生活の質(QOL)の維持・向上のためには、エビデンスに基づいた認知症ケアの実践が課題です。当院では、年間を通じて開催している生活援助技術講座において、数年前から認知症の症状やケアについても盛り込み普及に努めてきました。2016年からは認知症対応力向上研修を開催し、認知症およびそのケアに関する知識の講義、認知症の症状を視覚化して解説するなどの工夫も行っています。
 
 しかし、研修直後には「認知症の知識が得られた」「認知症患者のケアに活かしたい」という意見が聞かれるものの、実際のケア場面では、認知症の中核症状や患者背景を考慮せず、安易に「大丈夫ですよ」と返答するなど、知識と実践が乖離している状況が散見されました。そのため、現場の看護師が習得した認知症の知識をもとに、科学的根拠に基づいたケアを実践できるようにする必要がありました。
 
 そのため、同年に「認知症ケアマニュアル(以下、マニュアル)」を改訂しました。しかし、マニュアルは作成しただけでは活用されません。そこで、認知症の基本的知識をもち、根拠に基づいた認知症ケアを実践できる看護師を育成する方法として、マニュアルに基づいた院内教育ガイドの作成を試みました。作成は、老人看護専門看護師と認知症看護認定看護師を含むリンクナースが中心となって行いました。
 

2.院内教育ガイドの作成

■看護師に必要な認知症に関する基本的知識の選定

 院内教育ガイド(表1)では、マニュアルより、看護師に必要な基本的知識を選定しました。まずは「ガイド1. 認知症とは」「ガイド2. 認知症の中核症状」の院内教育ガイドを作成しました。これらは、認知症ケアの根幹となる知識となります。「ガイド1. 認知症とは」の内容は、認知症の定義、認知症の種類と特徴、「ガイド2. 認知症の中核症状」の内容は、中核症状とは、中核症状の種類、中核症状における患者の不安です。特に中核症状による患者の不安は千差万別です。その不安を理解せずして、認知症ケアの質の向上は望めないと考えました。
 
表1:青梅慶友病院認知症ケア 院内教育ガイド
表1:青梅慶友病院認知症ケア 院内教育ガイド

■院内教育ガイドの特徴

 院内教育ガイドの特徴を、「ガイド1. 認知症とは」を例に図1に示します。講義時間は、講師に過度の負担がかからないこと、病棟運営に支障がないこと、受講者が集中して参加できることを考慮し15分間程度としました。対象は、全職種とし、介護職や直接ケアに携わらない職員にも理解できる言葉を選択しました。
 
図1:院内教育ガイドの特徴(「ガイド1. 認知症とは」を例に)
図1:院内教育ガイドの特徴(「ガイド1. 認知症とは」を例に)
 
 認知症ケアは、多職種チームで取り組む必要があります。その際、生活と医療の両方に精通している看護師が、介護職との連携、医師への報告、リハビリテーションスタッフとの調整など、対象に合わせて専門用語とガイド内で使っているような平易な言葉、表現を使い分けることで情報共有しやすくなります。また、誰にでもわかる用語や表現は家族とのコミュニケーションにも有用です。そのようなことも意図して言葉や表現を吟味しました。
 

3.院内教育ガイド活用に向けてマイクロティーチングを実施

 院内教育ガイドがあっても、はじめて講師を務めるのは緊張が強く、自分の伝え方が良いかどうか迷いや不安も出てきます。そのためマイクロティーチングを実施しました。マイクロティーチングとは、教え方を学ぶ方法で、少人数で順番に短時間の講義とフィードバックを繰り返し、自身と他者の講義を振り返りながら、講義内容やプレゼンテーションのブラッシュアップを図る方法です。
 
 講師を務める看護師は、部署での勉強会に先立って実際に講義を行う項目のなかから内容を抜粋し、5分間の模擬講義を行いました。その後、メンバーで意見交換を行い、肯定的フィードバックを得たり、指導的役割を担う看護師からスーパーバイズを受けました。「相手に伝わる話し方や内容の準備ができた」「自身の発表のヒントが得られた」「勇気をもらった」などの意見があり、各自ブラッシュアップを図ることができ、勉強会に向けて意欲が高まりました。
 

4.院内教育ガイド活用前後の比較

 院内教育ガイドを活用した勉強会の開催概要を表2に、また部署での勉強会開催の様子を写真1に示しました。
 
表2:各部署での勉強会の開催概要(2017年9月)
表2:各部署での勉強会の開催概要(2017年9月)

写真1:部署での勉強会開催の様子
写真1:部署での勉強会開催の様子

■受講者の意見

 勉強会後、職種を問わず受講者から「加齢による認知機能の低下と認知症の違い、4大認知症の違いがわかった」「病棟の患者を例に具体的に説明してくれたので、認知症の症状や進行の様子がよくわかった」「中核症状から患者が抱えている不安などを考えることができた」「大変なのは私たちスタッフではなく、患者が一番不安でつらい状況にあることを再認識した」「身近なスタッフが講師で質問しやすかった」などの意見がありました。さらに看護師からは「失認・失行などの中核症状は、何となくわかっていても自分で説明するのは難しいと思っていた。今後は、カンファレンスなどで患者の中核症状を具体的に説明していきたい」などの意見がありました。
 
 身近な看護師が講義をすることで、受講者が講師に親近感を抱けるほか、病棟患者を具体的にイメージすることもでき、認知症の基本的知識の理解につながったといえます。また、認知症の症状についての知識を得ることで、認知症患者が抱える不安や苦痛についても考えることができるようになっていました。各部署の管理職からは、「病棟患者の症状などの具体例を挙げ、わかりやすく学べたのはよかった」「短時間だが、レベルアップにつながると思う」などの意見があり好評を得ました。
 
 管理者が取り組みの価値を理解し、忙しいなかでも勉強会の時間をつくることに協力的で、皆が参加できるように調整するなどの支援は、認知症ケアに優れた人材の育成や部署の認知症対応力向上にとって、大きな推進力になるといえます。
 

■講師を務めた看護師の変化

 講師を務めた看護師からは「認知症について他者に理解してもらうために、とにかく勉強した。おかげで自分がより深く理解することができた」「改めて冷静に患者の状態像を分析した」「院内教育ガイドがあることで安心して講義を進めることができた」といった意見が多くありました。教える立場に立つことで、院内教育ガイド活用の目的であった認知症の知識の習得ができていました。
 
 また、院内教育ガイドを活用し、認知症患者を冷静に分析した結果、各部署で個別性の高い講義をすることができていました。それにより講師が達成感を得られ、ケアへの自信や意欲向上にもつながっていきました。「認知症の知識」と「患者に起きている現象」をつなぎ、知識を応用する力を養うという点においても効果があったと考えます。
 
 さらに、「自分自身が言動に注意し、手本となる対応をしていかなくてはいけない」といった実践モデルになるという意識の変化、「介護職から頼られるようになった」「皆、困ったときにどうしたらよいかすぐに答えを求めるが、患者の状態を多角的に分析できるように勉強し、どのような方法がよいか一緒に考えていけるようにしたい」と、看護師としての役割を改めて意識したり、多職種連携について具体的に考える様子がみられるようになるなどの変化もありました。
 

■今後の展望

 現在は、現場の看護師全員が認知症ケアの根幹となる知識を習得し、高齢患者が認知症によって生活にどのような支障をきたしているか、何に不安を感じ困っているかを紐解いて多職種に通訳すること、そして、科学的根拠に基づいたケアを実践することを目指した人材育成に取り組んでいます。
 
 本テーマに関する今後の展望は、残りの院内教育ガイド3~5も作成し、今回作成したガイドと併せて活用することで、さらに認知症対応力を磨いていくことです。そして“誰でも”講師を担えるよう、今回、講師を務めた看護師がサポートし、現場で認知症対応力のある人材を増やしていきたいと考えています。
 

5.他施設で取り入れる際のアドバイス

 急性期の医療機関において、認知症に対する知識の普及は急務です。現在、各都道府県において看護師等医療従事者向けの認知症対応力向上研修が開催されています。
 
 まずは組織内での課題を共有すること、加えて、それを達成するための目標を明確にし、多職種チームで取り組むことが必要です。それを推進するとき、中堅看護師が要となります。また、看護管理者のリーダーシップも欠かせません。
 
 「教える立場に立つことは、一番の学びになる」という言葉のとおり、臨床の場で看護技術や生活援助技術を身につけ、経験を積んだ中堅看護師が、院内教育ガイドという認知症の基本的知識について一定の質が担保されたプログラムを活用したからこそ、講師を務めた中堅看護師と受講者双方に学習効果があったと評価できます。
 
 講師を務めた看護師は、他者に教えるために主体的・能動的に学ぶことで学習効果が高いものとなり、かつ知識と実践をつなぐことができました。そのなかで、看護管理者の看護師に対する支援や院内教育ガイド活用に対する好評価も重要であり、この取り組みの目標であった、根拠に基づいた認知症ケアを実践する人材の育成につながったといえます。
 
 院内教育ガイドによる勉強会を行うには、組織の課題や学習者の状況に応じ、主体的に学べる方法や仕組みを考えること、それを看護管理者がサポートすることが重要です。
 

参考文献

●厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要).(2019年7月31日閲覧).
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12304500-Roukenkyoku-Ninchishougyakutaiboushitaisakusuishinshitsu/01_1.pdf
●湯浅美千代, 他:新たな技術の体系化へのチャレンジ 技術体系③高齢者ケア. 臨床看護 臨時増刊号 2010;36 (12):1590-600.
●湯浅美千代, 編:看護師認知症対応力向上テキスト 第5版. 東京都福祉保健局高齢社会対策部, 2017.
●諏訪さゆり:認知症ケアの実践に必要な知識. 循環器ナーシング 2016;6 (12):4-13.
●桑田美代子, 他編:高齢者のエンドオブライフ・ケア実践ガイドブック 第2巻 死を見据えたケア管理技術. 中央法規出版, 2016.

(ナース専科2018年6月号より転載)

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