【連載】コーチング・ティーチングを活かしたCKD看護指導の極意

【CKD指導】透析を嫌がる患者さん

解説 喜瀬はるみ

東葛クリニック病院 透析統括師長 / 透析看護認定看護師

Q.患者さんが透析を嫌がり、説明を聞いてもらえません。また、表情が乏しく、受け入れができているのか、わからない患者さんもいます。

 透析が導入となり、他院からの紹介で来院した患者が透析を嫌がっており、「週に何度も病院に通うのは嫌。もう何もできなくて、こんなふうじゃ私の人生はおしまい」と言って指導に入ることができません。
 
 また、食事制限の必要性を説明していると、「はいはい、わかったわかった」と軽い返事で話を打ち切られてしまい、本当に理解しているのかわからない患者もいます。本当に理解できているか確認しようと質問を重ねると「うるさい、そんな話はもう聞きたくない」と怒り出してしまいます。
 
 ほかにも導入説明をしている間中、表情が乏しく反応がなく、視線も合わせてもらえず、「質問がありますか」と尋ねても首を振るだけで、受け入れてくれているのかいないのかが、わかりにくい患者がいます。
 
 それぞれどのように対応すればよいのでしょう?
 


MEMO 患者は、単に不安なだけ。教えてもらう姿勢は、患者があなたを受け入れてくれるための第一歩!

 知識のない新人の看護師に対して、「あなたは何も知らないからそばに来ないで」と言う患者がいます。病歴が長い患者のなかには、多くの医療者から繰り返し指導を受け、自分でも本などでよく勉強しており、新人の看護師では太刀打ちできない知識をもっている場合もあります。そのような患者に、新人が指導しようとしても、「あなたに何がわかるんだ」と言われてしまい、追い払われてしまいます。また、わざと難しい質問をしたり冗談を言って、新人を試そうとする患者もいます。
 
 このようなとき看護師は、自分の未熟さに打ちひしがれてしまいそうになります。しかし、それはあなたが悪いわけではありません。患者は、見慣れない顔が来たことで、「この新人は大丈夫かな」と単に不安に思っているだけなのです。透析という命を預ける治療に対し、確かな知識・技術を医療者に求めることは当然のことであり、慣れたスタッフのほうがよいと思うのは、当たり前の心理です。
 
 そんなときは、無理強いせず、患者に教えてもらう姿勢を心がけてみましょう。そして患者から「僕はこうやってきたんだ。こうするとよいんだ」など教えてもらったら、「ありがとうございます。勉強になりました。Aさんのやり方を覚えていきたいので、また教えてください」とお礼を言ってみましょう。このような姿勢が「また来いよ。いつでも教えるよ」と、患者があなたを受け入れてくれる第一歩につながります。

 このように看護師が学ぼうとしている姿勢は、患者もしっかり見ています。透析患者とのつき合いはとても長いものになります。焦らずゆっくり成長していけばよいのです。


 

A.患者さんのなかで、透析が受け入れられていない可能性があります。受容までのプロセスを理解し、タイミングを見計らいましょう。

 透析自体や医療者の介入を拒否するケースには、透析を導入して間もないため、疾患や透析に関する知識がなく、治療の必要性を感じられないケースと、透析療法やそれに伴う生活の変化を受け入れられないケースの2つが考えられます。
 
 疾患や透析について知らないことが拒否の原因と考えられる場合は、知識を提供する「ティーチング」が有効になります。その際、通り一遍の指導ではなく、患者の知りたい内容、タイミングに合わせ、疾患の成り立ち、透析療法の仕組み、それに伴う生活上の制限と注意についてなどの理解度を確認しながら、必要であれば家族も含め、できるだけわかりやすく伝えることが必要になります。
 
 一方で、透析療法や生活の変化が受け入れられない場合は、患者は何らかの知識をある程度有していることが考えられます。そこで知識や認識が間違ったものではないか確認を行い、必要であれば正しい知識や認識へと修正を行います。
 
 それでも拒否が続くようであれば、患者が受け入れられないという事実を、まずは受け止めることが大切です。このようなケースは、透析を導入したばかりの患者だけでなく、10年以上続けている患者のなかにもいるものです。コンプライアンスが非常に悪い場合は、長年透析に通っていても、実は受け入れられていない可能性を疑ってみてもよいでしょう。
 

「死の受容モデル」と似たプロセスをたどる透析導入

 透析療法は、始まってしまえば腎移植を行わない限りは一生続き、やめることが死に直結する治療となります。しかも週に十数時間も機械に拘束され続けます。このような治療は患者にとって受け入れがたいことが多く、患者が透析を受け入れていく過程は、キューブラー・ロスによる「5段階モデル(死の受容モデル)」によく似ているといわれます。
 
 このモデルでは、受容までのプロセスとして、「否認」「怒り」「取り引き」「抑うつ」「受容」の5段階があり、各段階を行きつ戻りつしながらたどります。
 
 患者が透析導入を拒否している状態は、5段階モデルの「否認」の状態かもしれません。「病院に通うのは嫌」「透析なんかしたくない」と「否認」しているとき、患者の耳には看護師による説明は入りません。患者が、調子よく「はいはい」とうなずき、話を聞き流しているようなときも、「否認」である可能性があります。
 
 このような状態の患者に対しては、いったん疾患の説明や透析については触れず、患者の受け入れ態勢が整うまでそばに寄り添い、思いを「傾聴」していきます。
 
 次の「怒り」の段階に入ると、「なぜ私が透析をしなければならないんだ!」「なぜ私だけがこんな理不尽な目に遭うのだ!」と、怒りは自分や医療者、何か形のないものに向けられたりします。
 
 こういった状態の患者もまた、透析を受け入れる準備はできていないといえるでしょう。医療者に怒りの矛先が向くと、看護師は拒絶されたりもします。ただし、患者がどんなに私たちを拒絶しても、私たちはいつでも患者を受け入れる体制でいること、扉を開けて待っていることを、常に伝え続けることが大切です。
 
 次の「取り引き」は、「もし○○をしたら××はしなくてもよいか」といった反応を示す段階です。患者からは「一滴も水を飲まなければ透析はしなくてよいのか」などの質問が出てくるようになります。この反応は、透析のことを考え始めた証拠といえます。治療やケアを拒否しているなかで、少しでも取り引きのような反応を示すようになったら、このタイミングを逃すことなくキャッチし、患者とコミュニケーションを図るきっかけにします。患者の質問に真摯に向き合うことができれば、患者も看護師の言葉に耳を傾けてくれるかもしれません。これが透析受け入れの一歩につながる可能性があります。
 
 この「取り引き」がうまくいかないことに薄々気づいてくると、「抑うつ」が出てくることがあります。患者は、表情や感情の表出が乏しくなり、沈黙しがちで沈み込みます。反応も乏しくなるため、コミュニケーションが難しくなりますが、この時期の看護師は、ただひたすら寄り添うしかありません。もし患者から「つらい」「苦しい」などの言葉が聴かれたら、「つらいですね」「苦しいですね」と「共感」します。
 
 傾聴や共感などでは対応できず、あまりにも沈み込むようであれば、心療内科や精神科につなぐことも考えます。薬を使って十分に休息してもらい、不眠や疲労といった状態から脱することができれば、透析のことを前向きに考えられるようになる可能性があります。
 
 どの段階でも同様ですが、患者が透析を拒否していても、とにかく来院だけは定期的に続けてもらうことが大切です。来院がなくなれば、受け入れどころか治療の手だてがなくなってしまいます。
 
 すべてを拒否している患者には、説得も説明も効きません。筆者の経験では、「私はあなたのことがとても心配です。顔を見せに来てほしい」とお願いすることが効果的であったと感じます。
 
 看護師としてではなく、1人の人間として、あなたのことが気がかりですと伝えます。そうすることで、自分のことを気にかけてくれる存在がいるということを認識してもらいます。すると「あの看護師が心配だと言っていたから、顔を見せに行くか」と、受け入れとは別の動機で来てもらえることがありました。そして、来院してくれた患者には、「ありがとうございます。本当によく来てくださいました。顔を見せてくれてとても安心しました」と、必ず心からお礼を伝えます。
 
 先にも書きましたが、「否認」から「受容」までの段階は、常に揺れ動くことを忘れてはいけません。一度「受容」の段階に至った患者でも、病状の変化や合併症の発症、生活環境の変化などのさまざまな要因により、「否認」と「受容」の間を行ったり来たりします。パートナーが亡くなって生きる希望をなくし、透析を拒否するようになったという患者もいました。看護師にとって大切なことは、患者の変化を見逃さずにキャッチし、受け止め、段階を見極めて対応し続けることです。
 
イラスト


MEMO IメッセージとYouメッセージ

 患者との信頼関係を築くときに、コーチングのスキルでもある「Iメッセージ」を使うよう心がけるとよいでしょう。Iメッセージでは「あなたが頑張っている姿を見て、“私は”とても嬉しいです」と、私を主体にして表現します。
 
 これに対し、「“あなたは”よくやっていますね」と表現する「Youメッセージ」は、患者にとって、上から評価されているように感じられるものです。
 
 Answer 2のなかで述べた「来院して顔を見せてくれて安心した」という表現もIメッセージです。このように言われた患者は、相手が自分のことを見てくれている、理解してくれていると感じ、それが心を開くきっかけになるのです。
 
 一方で、患者への対応で困ったときには、私(I)ではなく相手(You)、この場合は患者を主体にして考えるとよいでしょう。「患者さんが指導を受け入れてくれない」というとき、それは「私がこんなに指導を頑張っているのに患者さんが受け入れてくれない。この状態を、私が困っている」という意味であり、主体は“私=看護師”です。ですが、「“患者さん”は、何を困っているから、私の指導を受け入れられないのだろう」「“患者さん”は、この状態をどうしたいと思っているのだろう」のように、患者を主体にして物事を捉え直し、問題がどこにあるかを考える習慣をつけるとよいでしょう。
 

Column 独居で認知症など、自己管理が難しい場合には

 CKDや透析の患者にも独居の中高年者が増えています。高齢で認知機能が低下している患者では、服薬や食事などの管理が難しくなることも少なくありません。このような場合、患者自身でできることが限られてきます。そこで、病院や地域など、患者をとりまく環境を整えることが必要になります。
 
 例えば、薬はできるだけ服薬回数が少なく、わかりやすい組み合わせの処方にしてもらい、1回分ずつ分包してもらうとよいでしょう。また、降圧薬であれば、医師や薬剤師に相談して、1日1回服用タイプのものに変更してもらい、透析のある日は来院時に看護師が与薬するなどもよいでしょう。来院のたびに服薬後の袋を持参してもらい、服薬状況を確認するといった工夫も有効です。
 
 どうしても自己管理が難しいときには、訪問介護や訪問看護などのサービスにつなぎます。ホームヘルパーや訪問看護師と連携し、服薬や食事などが、できるだけ規則正しく管理できるように調整します。食事については、患者に経済的余裕があれば、宅配食にすることもよい手段といえます。
 
 透析患者は、週に1~3回という頻度で来院し、医療者とかかわっており、血液検査や画像診断などもたびたび行われるため、病状や認知機能などの変化をいち早く発見できる機会に恵まれています。そこで透析室の看護師は、日々の業務をこなすだけでなく、患者の様子を注意深く観察し、変化に気づくよう心がけることも大切です。
 


イラスト/たかはしみどり
(ナース専科2018年10月号より転載)

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