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【連載】看護に関するQOL向上のWIN-WINの法則

6.看護師の言語表現のあり方を見直そう

執筆 鈴木由紀子

了德寺大学 健康科学部看護学科

言語表現はどのように研鑽するの?

 前回の「5.看護を考える楽しさを“言葉”にして波及させ、看護師の語りの効果でWIN-WINの法則につなげる」では、個別ニーズに沿った援助の提供による効果のみでなく、看護師が看護の喜びを言語化して伝えたことや、変化を気にかける患者さんへの思いを言語化して患者さん自身に伝えたことが相乗効果となり、周囲に波及してWIN-WINの法則を導くような現象につながる可能性があるということをお伝えしました。

 “言葉”にして伝えることの効果が重要であるからこそ、そのために現状の看護師の言語表現のあり方を見直す必要があります。今回は、言語表現の研鑽と「語る力」の向上について考えたいと思います。

「語りの力」が必要とされる頻度が高いと、自然と研鑽される

 看護師の言語表現の特徴として、病棟の業務体制や患者さんに必要な看護によって、看護師に必要とされる語り(ナラティブ)の頻度が違うため、最初に配属される病棟により、自然と「語りの力」のスキルに違いも出てくることが考えられます。

 例えば、完治が難しい疾病やステージが進んだがんなどの慢性期・終末期の病棟の看護では、患者さんの不安や怖い気持ちを受け止め、それをチーム医療でのチームにフィードバックするための「語りの力」が必要になります。

 しかし、やがて回復していく疾患の患者さんの看護では、出口のない不安を抱えることはあまりないため、回復過程で異変がないかを中心に観察することが主になる場合が多くなります。つまり、身体的な状態や異常データの有無などをチームへフィードバックすることになり、この病棟では慢性期・終末期の病棟に比べて、「語りの力」はあまり必要のない状況だといえます。
 
 これはあくまでも患者ニーズに由来した、病棟の特徴からの観点ですので、新しい治療に挑戦するリスクや不安などの個別性を加味した観点ではありません。

 また、意思疎通が難しい患者さんのいる病棟では、患者の個別ニーズをつかむためのサインの観察・身体機能の異常の有無の観察を行い、家族から患者さんの今までの生活や価値観を聴取し、患者さんに最適な看護を提供しつつ患者さんの反応を確認して評価するという、難しい看護状況に合わせた「語りの力」が必要となります。

 このように、自然と「語りの力」が必要とされ、使用する頻度が高いという病棟の特徴により自然と研鑽されていくため、最初に配属される病棟により、「語りの力」のスキルに違いが出るのではないかと考えます。

看護師の「語りの力」=「語る力」は、「看護の力」

 もう1つ、看護師の言語表現のあり方には、病棟の文化や教育体制も影響すると考えます。

 カンファレンスを業務の中に組み込み、看護師教育の一環として意識的に実施している職場では、看護師の「語る力」の能力の高さを、病棟全体から感じることができます。

 カンファレンスでは、守秘義務のある情報や個人情報に関して、倫理的な判断により適切に話す内容を精選して伝える能力も問われるため、患者さんの様子や発言について、身体的データや客観的状態などから多角的に説明できる力が研鑽され、「語る力」の能力の高い看護師が多いと考えられます。

 逆に、カンファレンスでも噂話と同じレベルの内容で話す看護師が多く、それを「語る力」であると考えている病棟もあります。そのような職場では、看護に必要な対応や患者さん・家族への説明においても主観的情報が優先したものとなり、対応や説明で不快な思いをする人が多いと感じます。

 例えば、糖尿病で食事療法と薬物治療により血糖コントロール中の患者Dさんの例を挙げます。Dさんが隠れて間食を繰り返していたために、食事療法の再指導の必要性があることに対して開かれたカンファレンスの様子です。

 E看護師は、隠れて間食している現場に遭遇し注意した経験があり、そのときのDさん本人の様子から再指導をするべきだという主張を語りました。「Dさん、駄目じゃないですかと注意すると、“少しだけなら大丈夫だと栄養士さんが言っていた。もう何日も我慢しているし、低糖の表示のものを選んでいるから許してほしい”と、当然のように主張してきました。悪いと思っている様子ではないから、繰り返すに違いありません」

 それを受けて、別のF看護師が話します。「私が今日受け持ちですが、そういえばDさんのゴミ箱の中にお菓子の包装のゴミがありました」。そして、カンファレンスは再指導が必要であると結論づけられて終了しました。

 このカンファレンスは、まずDさんの発言や様子について語られ、後はE看護師とF看護師の主観的意見で構成されています。その中で、F看護師が見たDさんのゴミ箱の状況が、E看護師が聞いたDさんの発言やそのときの様子を裏付けるかのようなものであったため、まるで客観的情報のような扱いとなっています。しかし、お菓子の包装はDさんのところに御見舞いに来た人が食べてゴミ箱に捨てた可能性もあり、もう少し正確な情報を集めて判断するほうがよい内容です。

 また、身体的データや客観的状態として、現在の血糖値も示されるべきですし、Dさんの「栄養士が少しだけなら大丈夫と言っていた」、という話が本当であれば、どういう時間帯にどの程度の間食であればよいのか、管理栄養士とDさんの認識と医師の治療の意図を確認すべき問題でもあります。

 さらに、治療薬の効果の問題であれば、薬剤師の意見を聞きながら再指導を進めるほうが得策であるともいえます。

 いずれにせよ、食事療法と薬物治療の効果を血糖値も考慮して、科学的に「語る力」が必要であり、管理栄養士・医師・薬剤師の意向とDさんの認識の確認をしたうえで、実現可能な方法を検討して再指導内容を考えることで、よりよい看護になると思われます。

 このように、看護師のコミュニケーションのあり方の表れである「語る力」は、「看護の力」でもあります。職場全体の「語る力」の能力を高めることは患者さんによりよい看護を提供することにつながり、看護のQOL向上に大きく影響するため、「語る力」の見直しは重要だといえるのです。

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