【連載】看護師のための輸液講座

第14回 カテーテル挿入時の高度バリアプレコーション

監修 日本コヴィディエン株式会社

シングルユース医療機器の製造及び販売、並びにこれらに関連する一切の事業

執筆 井上善文

医療法人川崎病院 外科 統括部長

【目次】


カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)が院内感染症の重要な要因であることが認識されるようになり、さまざまな対策が講じられるようになってきました。このCRBSIという用語ですが、現在、CLABSI(central line associated bloodstream infection)という用語の方がトレンド、みたいな感じで使われている領域もありますが、これは注意して使うべきだと思います。CLABSIの場合は、associatedという用語が使われているように、かなり広い範囲を含んでいます。とにかく中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)が挿入されている状態で感染症が発生すればCLABSIということになります。CRBSIではない場合も含んでいます。ですから、私は、アメリカでCLABSIという言葉が出現したから、という安易な理由でそのまま日本に導入する必要はないと考えています。もちろん、CRBSIという用語もアメリカから来た用語ではありますが。CDCのガイドラインではCRBSIという用語が使われています。ということで、ここではCRBSIという用語を使うことにさせていただきます。
今回の話題は、中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)挿入時の高度バリアプレコーションについて、ということにさせていただきます。これがCRBSI予防の第一歩、という意味です。(図1)

中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)挿入時の高度バリアプレコーション

高度バリアプレコーションとは

かつて、高度バリアプレコーションが話題にもならなかった頃は、清潔手袋はもちろん使いましたが、カテーテルキットの中に入っている紙の、小さなシーツを使ってCVCを挿入していました。せいぜい50cm四方程度だったでしょうか。丸穴も開いていないものもあり、そういう場合にはハサミを使って切りぬくようなこともせず、手で破って穿刺部を作っていたように思います。帽子もかぶらず、マスクもせず、もちろんガウンも着ていませんでした。(図2)

CVC挿入時の標準バリアプレコーション

確かに、『俺は鎖骨下穿刺が抜群にうまいから、バイ菌が入る可能性がないくらいスパっと挿入してみせる』という感じでいたのかもしれません。 しかし、なかなかCVCが挿入できなかった場合、時間がかかって汗(冷や汗?)が術野に落ちたり、セルディンガー法で挿入するCVCではガイドワイヤーがはねて清潔ではない白衣に触れたりすることはありましたね。落ちた汗はどうする?イソジンRや酒精綿で拭ってそのまま操作を継続してましたね。結構いい加減な方法でCVCを挿入していたように思います。こんな場合、帽子をかぶっていたら汗を吸い取ってくれていたと思います。 現在は、汗を吸い取るハチマキのようなものも発売されています。(図3)

汗を吸い取るハチマキ

外科医は汗かきはダメだ、と言っておりましたが、ま、そういう汗取りも開発されていますので、大丈夫です。

しかし、大阪大学でIVH研に所属して院内の栄養管理を行うようになって以来、CVC挿入時にはガウンテクニックをするようになりました。特に、集中治療室でCVCを挿入する場合には、手術時と同じように手洗いをして、ガウンを着て・・・という高度バリアプレコーションを実施していました。
それから、手術室でBroviac catheterやHickman catheterやポートを挿入する場合ももちろん手洗いをして手術時と同じ態勢で挿入していました。(図4)

ポート挿入時の高度バリアプレコーション

さて、高度バリアプレコーションですが、帽子をかぶり、マスクをし、清潔手袋を装着して清潔ガウンを着用し、患者の体全体を覆うことができるくらい広い覆布(『おいふ』と読む。英語ではシーツ)を使う、と言う意味です。(図5)

PICC挿入時の高度バリアプレコーション

正直に言いますと、私もこの高度バリアプレコーションをやらなくてはならない、と推奨するようになったのは、平成11年に科学技術庁の仕事としてガイドラインを作成してからです。この時からは、必ず高度バリアプレコーションをしてCVCを挿入しています。
とにかく、1996年のCDCガイドラインでmaximal barrier precautionが推奨されたことが、CVC挿入時の清潔操作の重要性に気づかせた、ということだと思います。この日本語訳としては高度バリアプレコーションというカタカナが使われています。Raad IIらが発表した論文(Raad II, Hohn DC, Gilbreath J et al: Prevention of central venous catheter-related infections by using maximal sterile barrier precautions during insertion. Infect Control Hosp Epidemiol 15:231-238, 1994)が注目されて、CDCガイドラインの中で推奨されるようになったものだと思います。データとしては、高度バリアプレコーションを行った方が、標準バリアプレコーション(手袋とカテーテルキットに含まれている狭い覆布でCVCを挿入する)でCVCを挿入するよりも、CRBSI発生頻度が有意に低かった、というものです。

高度バリアプレコーションは本当に有効?

Raad IIのデータは、実は、データを詳しく見ると、私には納得できない部分があります。
この論文では(図6)、高度バリアプレコーションで挿入したCVCと、標準バリアプレコーションで挿入したCVCの感染率の差は、CVC挿入後3週間~1ヶ月後から見られているのです。私の考えでは、この差は、CVC挿入直後から1週間以内くらいで有意差となるはずなのです。CVC挿入時のCVCの汚染度に差が出るはずなのです。ですからCVC挿入後3週間ないし1ヶ月が経過しての感染率の差はCVC挿入時のバリアプレコーションの差によるものではなく、その後の輸液ラインやCVC挿入部の管理の差によるものではないかと思っています。だから私は納得できないデータだと言っているのです。もちろん、高度バリアプレコーションが有効であることを示している他の論文はあるのです。

Raad IIの高度バリアプレコーションの有効性を示す有名な論文

しかし、Raad IIの論文の解釈がどうであれ、私はCVC挿入時の高度バリアプレコーションを強く推奨しています。それは、カテーテル感染予防対策の第一歩はCVC挿入時に始まる、ということを言いたいからです。単純明快な話で、CVC挿入がいいかげんな操作で行われたら、挿入したCVC自体が感染した可能性があります。感染したCVCに対して、その後、いくら無菌管理を徹底しても、これは無駄な努力であることは誰でもわかるからです。
また、私の経験を述べましたが、CVC挿入に手間取ると汗が落ちたり、不潔な部分が露出したりもしますし、ガイドワイヤーがはねて清潔ではない白衣に触れたりしますので、そういう意味でも高度バリアプレコーションを行うべきです。ある意味、CVCの無菌的管理の第一歩として、この高度バリアプレコーションを強く推奨させていただいております。

高度バリアプレコーションをやらないドクターがいる

そうなんです。高度バリアプレコーションの意義をナースが理解しても、院内でのマニュアルに高度バリアプレコーションを実施することを記載しても、それをやってくれないドクターがいます。ま、どこの施設でも同じ問題を抱えているとは思いますけどね。 その理由は、(1)暑い、(2)邪魔くさい、(3)俺は一発で挿入してみせるからガウンなんか着なくてもいい、(4)余計なコストがかかるでしょ?などです。しかし、もはやそういうことを言っている時ではなくなっています。どのガイドラインでも高度バリアプレコーションは推奨されています。もし、CRBSIが発生して訴訟になった場合、一番ガイドラインを良く勉強している患者側弁護士さんが、高度バリアプレコーションが実施されているかもチェックしてくるはずです。高度バリアプレコーションが実施されていないことがわかれば、その訴訟では不利な状況になることは間違いありません。もはや、そういう状況になっています。ですから、実施しなければならないのです。
(4)のコストの問題は、かなり解決していると思います。私が高度バリアプレコーションをキットとして組んだ10年ほど前は、帽子、マスク、滅菌ガウンと広い穴開き覆布で2000円以上という価格でした。(図7)

キット内容

現在は1000円以下のキットが大部分です。その後の感染対策に有効であるのなら、『安いものではありませんか』。最近は、特注として、広いシーツにも工夫をこらしています。従来のシーツでは真ん中に操作をするための丸穴が開いていますが、図8のように、操作がしやすい位置に丸穴を開けるという工夫を行っています。各施設で一番使いやすいキットを組んでもらうといいでしょうね。(図8)

穴の位置を工夫した覆布

当施設では、CVCを挿入する場合にはナースがドクターに高度バリアプレコーションのキットを渡すことにしています。それでもやらないドクターがいて、ナースも困ることがあるのです。そういう時はどうするか?CVC挿入の介助をやめて、勝手にCVC挿入をやらせたらいいですよ、ね、そう思うでしょ?

病棟のナースにはガウンの着せ方を完璧にマスターして欲しい

手術室のナースはガウンの着せ方が完璧です。当院では手術室では看護助手さんもガウンを着せてくれるのですが、完璧です。それは、清潔部分と不潔部分の区別を完全に理解しているからです。(図9)

ガウンテクニック

首の紐は、術者が持っている紐の端と清潔にしておかなければならないガウンの真ん中をもって後ろに回してください。首のマジックテープもくっつけてください。腰紐はガウンの内側にありますので、それも縛ってください。締めすぎないようにお願いします。次はマスクの紐ですね。これも同じように、術者が持っている紐の端と清潔部分の真ん中を持って耳の上で縛ってください。『きつくないですか?』とやさしく聞いてください。次に、ガウンの腰の部分の紐を回します。清潔部分と不潔にしていい部分の区別をちゃんと理解してください。
やっぱし、ガウンくらいは清潔に着せることができるように練習して欲しいですね。いちいち説明しながら着せてもらうのは、ちょっと寂しいものがありますね。ナースのくせにガウンも清潔に着せてくれないのか、なんて、偉そうなことを感じる時がありますから(怒らないでください)。 それから、術者が高度バリアプレコーションをしているのですから、介助するナースもマスクくらいはしておいて欲しいですね。帽子?ナースキャップが廃止になっているのですから、帽子もいらないだろう、という気はしますが・・・。CVC挿入時にだけは帽子をかぶっていただいた方がいいかな、という気もします。もちろん、データはありませんよ。
ということで、とにかく、CRBSI予防対策として高度バリアプレコーションは重要である、ということを説明させていただきました。CRBSI予防の第一歩は、無菌的なCVC挿入であり、そのためには高度バリアプレコーションを実施する、これを徹底させてください。

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